「ふわぁぁぁ」

春奈はあくびをしながら大きく伸びをした。その姿を見た黒羽はクスクスと笑う。

「もうっ。なんで笑うの？」

手を下ろした春奈が、そのまま黒羽の腕をポンと叩いた。黒羽は笑いながらそれを受けると、春奈の耳元に唇を寄せ、そっと囁く。

「なんで、眠いんだ？」

「え？」

春奈が目を丸くして黒羽の顔を観ると、黒羽はいたずらっ子のような目をして春奈を見ていた。

「何で眠いのか。教えてよ、春奈」

「それは夕べ透さんが……」

そこまで口にしてからかわれているのだと気づいた春奈は、頬を膨らませながら先ほどよりも強めに手を振り下ろす。

黒羽はそれを笑いながらかわし、プラットホームに置いていたカバンを手に取った。

「電車が来た。乗るぞ」

ホームに特急電車が入ってきて一時休戦になった。電車が止まりプシューと音をたてながらドアが開く。平日の朝早い時間帯。しかも下り方向ということで、乗降客は数えるほどしかいない。

ましてや黒羽達が乗り込むのはグリーン車だ。自由席ですら空席が目立つというのに、グリーン車なんて。黒羽がそう思いながら車内に入ると、案の定グリーン車にはひとりも客がいなかった。

「貸切？」

春奈があたりをキョロキョロと見渡しながらあとから続いて入ってくる。

黒羽は返事の代わりに春奈に微笑むと、先に春奈を座席に座らせた。

「窓側の席、いいんですか？」

いいんですかといいながらも嬉しさを隠しきれない春奈に、黒羽は小さく笑う。しかし春奈はそれに気がつかないようで、嬉しそうに外を眺めていた。

（まだ電車が動いていないのに）

黒羽は笑いながら網棚に荷物を上げ、春奈の横に腰を下ろした。

間もなくして電車が動き始めると、春奈は子供のように外の景色にかじりついた。

「透さん！あそこ、桜が咲いてます！」
「透さん！あそこの山のてっぺん、まだあんなに雪が」
「透さん！」

外の景色を見ては自分に逐一報告してくる春奈に、黒羽は笑いながら言った。

「病院からみえる景色とそう変わらないだろう？」

「もう！そんなことないですっ」

ぷいっと背中を向け窓の外を見る春奈の後ろ姿にたまらず吹き出してしまった。

もちろん春奈にすぐに睨まれた。



しばらくして窓の外に湖が見えると、春奈は"これならば"と思い、黒羽に声をかけようとした。

すると、"とん"と肩に何かが当たる。

春奈がそちらを見ると、黒羽が眠って春奈の肩に寄りかかっていた。

（ふふ。長いまつげ。鼻筋は通って、口元は自信に満ちていて。本当にかっこいい。でも、少し疲れが顔に出てる……）

春奈は２人の間にある黒羽の手を自分の太ももの上にのせると、指を交互に組み、寄り添うように目を閉じた。


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こんにちは。まぬかんです♪
新年明けましておめでとうございます。

まったりゆったりマイペースにはなりますが、更新していきたいとおもいますので、本年もどうぞよろしくお願いいたします～♥

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