年下彼氏#01
「お姉さんの唇、エロいね。」
オフィス街の地下にある、夜にはバールになるようなお店。そこで遅めのランチをオヒトリサマしている私の前の席に男がいきなり座り、開口一番そう言った。
冗談じゃない。
新年度になり、ただでさえ繁雑な仕事に追われていると言うのに、消費税対応などもあり、朝から目の回りそうなほどのいそがしさだった。
やっと一区切りついて時計を見たら、1時半を回っていた。
張り詰めた緊張が解け、空腹である事を告げる音が鳴る。私は腹筋にチカラを入れながら席を立ち、この店にやってきた。
今、やっとほっと一息つけたのだ。
わたしのこの時間は、あんたのために浪費するような安っぽい時間じゃない。
私は男を無視して、もくもくとパスタを食べ進める。春キャベツとアサリのボンゴレに、菜の花が入っているところが春っぽい。アサリの滋味溢れる味に春キャベツの甘さ、そして菜の花のほろ苦さが口の中で渾然一体となって、思わず顔がほころびそうになる。ここの料理人の塩加減は実に絶妙で、「塩梅がいい」という言葉がぴったりと当てはまる。私にはとっても相性が良い、塩梅の良さだった。
目の前にこの男さえいなければ、きっと破顔させて美味しいものをいただける幸せを噛みしめるのに。
本当に邪魔なんだけど、この男。
そう思い、睨んでやろうと顔を上げると、男の人懐っこそうな笑顔が目に飛び込んで来て、私は毒気を抜かれてしまった。
歳は25歳ぐらいだろうか?
若い頃の、いい意味で生意気そうだった成◯という俳優に少し似ている。世の中の女性の半分以上には間違いなく好かれるであろう、そんな顔だ。
「美味しそうにたべるね。」
男は頬杖をつき、ニコニコと笑いながらそう言った。
私がポカンとながめていると、男はクスッと笑い、わたしの口の端に手をのばす。
私の口の端についていたと思われるパスタのソースを指でぬぐい、それを私に見せつけるかのようにぺろりと舌で舐めた。
そして私に視線を流すと、男とは思えないほど妖艶な笑みを見せる。
「ね、知ってる?」
私はその笑顔から目が離せない。
「女の人の唇って、下の唇と同じ形なんだって。」
下の唇って・・・。あ。
「お姉さんの唇は肉厚だから、さぞかし下の唇も肉厚でエロいんだろうね。俺、お姉さんの口が物を喰らうたび、ムラムラしちゃうんだけど。」
そう言って頬杖をつきながら私を見ている。
「ね、お姉さん。セックスしよ?」
まるで食後はコーヒーにするか、それとも紅茶にするか、そんなことを聞いているかのように、サラッと自然に口にする。
あまりにも自然すぎて、その内容が私の脳に届くまで、いや、処理されるまで、だいぶ時間がかかった。最近の若い子は、サラッと驚くようなことを言う。そう思って、自然に"最近の若い子"という言葉を使った自分に笑いがこみ上げてくる。
「笑ってるってことはOKってことだよね。」
男の声で現実に引き戻された。
「何言ってんのよ。おばさんをからかうんじゃないわよ。」
男の顔がキョトンとする。
「おばさんって?同い年ぐらいでしょ?」
・・・演技だとしても悪い気はしない。
「四捨五入したら50よ?」
「えっ。見えない。イっていても35ぐらいだと思ってた。」
この男、女の扱いに慣れすぎてる。確実に嬉しくなるポイントを抑えてくる。
私は改めて男を観察した。
すこしアヒル口の笑顔で、頬杖をつきながら私をみている。テーブルの上に置かれた手は大きくて、優しい顔とは合わないぐらい精悍だ。
すこし節の出た長い指が、指フェチの私の心をくすぐる。あの大きな手の、あの長い指で髪をすくように頭を撫でてもらったら・・・。私はゾクっとした。
そして驚いた。
こんな初対面の、自分よりも遥かに若いこの男に、私は欲情しているのか、と。
ダンナは優しいし何より人として尊敬している。子供も3人も授かって、今、いい男になるようリアル育成ゲーム中だ。日常生活に不満なんてない。あるわけがない。
「ね、お姉さん。」
男の手が伸びて、フォークを持ったままテーブルの上に置かれている私の手を上から覆うように握る。
ちょうど良い温度の人肌ってあるんだ。
「今日の夜。19時にこの店の前で。」
男はそう言って、私の伝票を持って立ち上がる。
「ちょっ。伝票っ。」
「じゃ、夜ね。」
そう言って伝票をペラペラと揺らしながらにぃっと笑うと、その男はレジへと向かった。そしてレジの前で振り返り、再びにぃっと笑うと、店を出て行った。
なんなの?あの男。行くわけないじゃない。
男がいなくなったので、私はあらためて春の味覚を満喫する。少し冷めて塩味がキツくなってしまった気もするけど、それはそれで美味しい。
幸せに膨らんだ胃を地球に引っ張られながら、店を出ようとすると、なぜか店員に呼び止められた。
「お客様、お会計をお願いします。お連れ様の分をあわせまして、しめて二千二百円になります。」
・・・
・・・・・?
「はい?」
私が聞き取れなかったと思った店員が、再び金額を私に告げる。
あの男。
私の分だけでなく、自分の分の伝票も置いていった!
なんなの?!あの男!!
名前も知らないあんたに奢るほど、余ってないのよっっ。子供も3人もいたらね、いくら3人男の子だからっていっても、かかるのよ、それなりに!!いろいろと!!!!!
私はしょうがなく、財布から五千円札を出して店員に渡す。さよなら、一葉。本当はお別れするのは英世だったはずなのに、あなたとお別れをすることになるなんて。春なのに、お別れですか?
そんな懐かしい昭和の名曲をくちずさみながら、とりあえず会社に戻った。
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