淫猥病棟#109~2つの改革 ~
「ところで、なぜ高階代議士が隣席されているのですか?!」
記者の一人が高階に向かって問いかける。
ゆう子がにっこりと笑ってマイクを握る。
「発表したいことが二つあり、こちらに寄せていただきました。」
記者はザワザワとしている。
その時、記者の1人が大きな声で叫ぶ。
「おいっ。内閣改造が発表されたぞっ。高階代議士がっ、厚生労働大臣だっ」
そこにいる一同がざわめく。
女性の、しかも最年少の厚生労働大臣の誕生だ。内閣入りの噂はあったが、まさか厚労相とは。誰もがそう思った。内閣支持率アップのための、お飾り的な役職が与えられると、もっぱらの下馬評だった。
ゆう子がにっこりと微笑みながら口を開く。
「ご紹介、ありがとうございます。」
皆、その自信に満ちた美しい笑顔に魅了されている。
こほん、と、ゆう子が小さく咳払いした。
「これが私の大臣として、公では初仕事になります。まず、一つ目ですが、こちらの黒羽先生には、国費で渡米していただくことになっています。」
黒羽が驚いてゆう子を見る。
「厚労省は文科省と連携して、黒羽先生の研究をバックアップしてまいります。」
「それは、税金が投入されるということでしょうか?」
記者が次々に質問する。
ゆう子は間をとりながら、穏やかに口を開く。
「優秀な頭脳を、日本のためにつかっていただく。そのための有益な投資と考えています。昨今の頭脳流出の流れをせきとめるべく、新しく制度を創設いたします。黒羽先生には、そのモデルケースの第一号となっていただきます。それに対し、関連省庁と連携してとなりますが、官僚の公費留学ならびに政治家の海外視察の条件とその内容を見直します。」
記者が次々と質問するが、ゆう子はいいよどみなく、スラスラと答える。早くも大臣としての資質をのぞかせていた。
お飾りなんてとんでもない。これは本物だ。そこにいる誰もがそう思った。
「二つ目ですが。」
ゆう子はちらっと病院長の権藤を見る。
「医療改革を行います。そのモデルケースとして、こちらの病院の救命救急センターと、特別病棟と呼ばれている施設を、国のコントロール下に置きます。」
「なっ。話が違うっ。」
権藤が椅子を倒しながら立ち上がり、激しく抗議した。
「私はそんなものは許可した覚えはないっ。」
「私が許可しました。」
一同が一斉に声のした方を向く。
入り口に祐介が凛々しい笑顔を浮かべ立っていた。
祐介はツカツカと会見席へと進むと、空いている席に腰掛け、マイクを握った。
「佐伯祐介と申します。医療法人財団佐伯会理事長、佐伯祐一郎から全権を委任され、当案件を担当しております。」
その祐介の堂々とした立ち居振る舞いに、男女問わず記者からため息が漏れる。記者たちは祐介の放つ雰囲気に飲まれていた。
やがて正気に戻った記者がフラッシュをたきはじめた。
「具体的にはどのように進めて行かれるのですか?」
「何をもって改革されたとみなすのですか?」
「国民の負担は?」
「弱者に対する医療は?」
次から次へと質問が飛び交う。
そのひとつひとつに祐介が、ゆう子が丁寧に答えて行く。
「ばっ。馬鹿げてるっ。」
一同が声の主である権藤を注視する。
「こんなのは茶番だっ。そんな小娘に、そんなボンボンに何ができるっ。医療はボランティアじゃないんだ。ビジネスだっ。それを何を青写真を…。」
「ボランティアとビジネス、それはどちらも、正しい医療の姿ではありません。」
ゆう子が席を立ち、権藤を諭すように話し始める。
「医療は愛です。」
権藤はゆう子の口から出た想像もしなかった言葉に口をパクパクとさせている。
「どちらか一方の献身を強いるものではありませんし、かと言ってギブ&テイクと言って割り切るものではありません。ましてや医療格差などあってはならないと思っています。国民はすべからく、健やかに生活する権利を持っています。それを支え合うのは、双方の愛です。」
「ぎ、偽善だっ。」
権藤が声を裏返らせながら抗議する。
その遠吠えのような声を、ゆう子は無言で跳ね返す。
「こんなのおかしい。まちがっとる。なぜ、ワシが。」
権藤はブツブツとつぶやきながら会見場を後にした。
「この医療改革は、まだ骨子ができていません。私は何年かかっても、強い背骨をつくりあげてみせます。といっても、私は医療に関しては素人ですので、ここにいる佐伯祐介先生、黒羽透先生とともに、その中心に当病院の救命救急の長である田代肇センター長を迎え、改革を推して行く所存です。」
ゆう子が立ったまま深々と頭をさげる。
すると祐介と黒羽がまるで申し合わせたかのように同時にスッと立ち、ゆう子と共に頭を下げる。
会場から、ひとつ、ふたつと拍手が起こり、やがて大きなうねりとなって会場を包んだ。
春奈は涙を流しながらモニターを見ていた。
---こんなことって。
感動で胸がいっぱいになり、溢れる涙が止まらない。
「葛西さん・・・」
振り返るとそこにはやはり涙をボロボロとこぼしながら嗚咽を抑えている師長の福田が立っていた。
福田は春奈を抱きしめる。
「ありがとう。ありがとう、葛西さん。」
春奈も福田を抱きしめる。
「いいえ、私は何も。でも、よかった。まだまだ、これからだけど、本当に良かった。」
二人はしばらく泣き続けた。
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