淫猥病棟#87~シロチョーの根底~
「では、失礼します。」
「達者でな。」
春奈が頭を下げると、住職が笑って答える。
春奈は田代の車の助手席に乗り込むとシートベルトをしめ、窓越しに会釈する。
住職が手を合わせ拝むようにお辞儀する。
春奈はなんだか神妙な気持ちになって、サイドミラーの中で小さくなっていく住職を見ていた。
「あの住職さ、元はバリバリの営業マンだったんだ。」
田代が運転しながら話し始めた。
「え?」
「営業で全国を飛び回っている時に、大雨で自宅の裏の山が崩れてな。奥さんと奥さんの腹ん中にいた子供さんを亡くしたそうだ。」
吐き出すように話す田代を春奈は少し驚きながら見ている。
---シロチョー?なんか、様子がおかしい?
「掘り起こした後、しばらくは息があったらしいんだけどな。道が土砂でふさがれていて、救急車が通れなかったらしい。不運、という言葉で済ませられない。人間の感情はそんな単純に割り切れるようなモノじゃない。」
赤信号で車を止める。
ハンドルの上で握りしめた拳が震えている。
それを見ている春奈の視線に気づき、拳を緩め笑顔を作る。
「ま、何十年も前の話だけどな。で、出家したんだと。それが住職の贖罪の仕方。」
春奈は田代の言葉に違和感を感じた。
---なんだろう?
「それ"が"?」
春奈のクチから何気なく出た言葉に、田代がビクッと驚いて春奈を見る。
その視線に気がついて、春奈はそのまま、クチを少し開いたまま田代の方を見る。
「シロチョー"は"?」
田代の見開かれた瞳が激しく揺れている。
「シロチョー"も"?」
その時後ろの車からクラクションが鳴らされる。
どうやらとっくに信号が青になっていたようだった。
田代は我にかえり、シフトをドライブに入れるとサイドブレーキをさげ、アクセルを踏み込んだ。
車内は沈黙したまま、重い空気が漂っている。
---これだ。シロチョーの根底に流れるモノは、きっとこれだ。
春奈は確信した。シロチョーが抱えているものの根底にあるのは、この話の延長線上にある、と。
春奈がクチを開こうとした時、田代に先を越された。
「自分から話を振って悪いんだが、この話はやめよう。忘れてくれ。」
田代の心の一片を垣間見た気がした。
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