蛇の涙#14(完)~予感~
涼介編
俺は高瀬の言葉に、いや、じいさんの言葉に従うことにした。
己に流れる血の謎を解き、いまだに自我を手放してしまっている彼女・・・谷田部美也子を元に戻したいと思う。
元に戻したからといって許されるものではないと思っている。それでも何かをせずにはいられなかった。
何か用意をするものはないか?と問う高瀬に、メガネを用意するようにいった。
「目はお悪くないはずですが?」
なんで俺の視力とか知っているんだ?と思いつつ、度の入っていない眼鏡を用意させる。
『なんでそんな悲しそうな目をするの?』
桃子の言葉が脳裏に蘇る。
俺はその”悲しそう”と言われた目を、眼鏡で隠す。
もう誰も心に立ち入らせないために、鎧をまとうように。
もう俺のことを可哀想といって、心に寄り添おうとする人を作らないために。
こうして大学での俺の研究がスタートした。
数ヶ月後、研究を続ける俺のもとに、綾小路家の跡取り娘がやってきた。
綾小路家はじいさんのころからの付き合いで、佐伯家の血の秘密を知る数少ない外部の人間だ。俺も何度かじいさんのパーティの会場で彼女に会ったことがある。
名目上は俺のゼミに参加したいとのことだった。誰も受け入れることのなかった俺のゼミに。
「綾小路麗香です。お久しぶり。」
「ああ。」
俺はそれだけ返事をして背を向ける。
どうせ俺の能力をさぐりにきたんだろう?
必要最小限の会話以外何も話さない。そんな日が続いたある日。
新しいゼミ生として、門戸を叩く人物が現れた。
「谷田部です。」
谷田部・・・。そう多くない苗字だ。まさか。
谷田部は俺が人生を狂わせた女性の弟だった。
俺と会話をしている時の視線は穏やかなものだったが、俺が背中を向けるとその気配は一変し、憎しみの視線が俺の背中に降り注ぎ、焼けつくような痛みを感じる。
しょうがない。俺はそれだけのことをしたのだ。
しかしある日麗香の言葉で状況が一変する。
俺の研究の内容を察した麗香が協力を申し出てきた。そして谷田部までもが。
そして谷田部が俺に言う。
「正直言うとね、まだ気持ちの整理はついていないです。あんたの本意にしろそうでないにしろ、姉さんが今おかれている状況には変わりがない。でもね、それだったら前を向け。最善の道を探せって、麗香さんに叱られました。」
俺は言葉を失い、谷田部を見た。谷田部もまっすぐ俺を見ている。
「ひとつだけ付け加えるのであれば・・・その血はあんたのせいじゃない。それは、わかります。」
言葉が出なかった。そして目頭が熱くなるのを感じて、慌てて2人に背を向けた。
俺を許すと言ってくれるのか?
美也子をあんな目に合わせた俺を。
・・・いや、まだだ。俺は許されてはいけない。美也子の身体に残る俺の毒を除去できるまで、美也子の精神をもとに戻すまで、俺は許されてはいけないんだ。
谷田部の紹介でもう1人研究に加わった。岡本というこの男も、谷田部と同様に薬学に造詣が深く、研究は一気に進んだ。
そして、解毒剤といって差し支えのないレベルのものが出来上がり、美也子に投与した。
その後美也子は徐々にではあるが己を取り戻しているらしい。
谷田部の話によると、リハビリに付き添っている医師と心を通わせ始めたらしい。
「センセ、さびしい?」
谷田部が俺に聞く。
俺はフッと笑った後「そんな事はない。むしろ喜ばしい」と答えた。美也子の幸せを心から願った。
解毒剤の精度をもっと上げるために研究は続けられた。
そんなある日、研究室で麗香と2人きりになった際、麗香が俺の顔をまじまじと見ながら喋り始めた。
「ねぇ、佐伯くん。そろそろその眼鏡を外してもいいんじゃないの?」
・・・・え?
俺が驚いた顔をすると、麗香は笑みを浮かべながら俺を見る。
「佐伯くん、目が悪いわけじゃないでしょ?見ていてわかるわよ。その眼鏡は、たぶん人と一線を引くためにかけているだけよね?」
俺はあいた口が塞がらない。常日頃から麗香の洞察力の深さには驚かされてばかりだが、こんなことまで言い当てられるとは正直まだ麗香のことを侮っていたのかもしれない。
「もう、必要ないわよね?」
資料をまとめるからと言って、1人研究室に残った。パソコンの画面を開いたまま、物思いにふける。
正直、俺は人を愛するということに臆病になっていた。
今回美也子にはたまたま効いただけなのかもしれない。
今後第2、第3の美也子が生まれるとも限らない。
俺はふぅっとため息をつく。
いつか眼鏡を外し本当の自分を曝け出して女性を愛する日が来るのだろうか?
いつかこんな自分でも受け入れてくれる女性が現れるのだろうか?
その時パソコンから電子音が流れる。
ゼミの申し込みを知らせる通知メールだった。
俺はそのメールにあるリンクから、ゼミの申し込みを行った生徒の情報にアクセスする。
「立花、弥生。」
思わず声に出してその名を呼ぶ。
俺に予感めいたものがあったのかもしれない。
俺の呪縛を解いてくれるのは、この立花弥生であるという予感が------。
蛇の涙 完
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こんにちわ。まぬかんです。
お久しぶりな人とお久しぶりなシーンで、ちょっと懐かしくなりながらお嬢様の淫事を読み返していました。
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そして、ついでといってはなんですが、作品リストも更新しました。ただし「蛇の涙」はまだ入っていません♪
淫靡な研究室がらみの作品リストはこちらからどうぞ⇒こちら
先日書きました「涼介を語りたい」ですが、ものすごく長くなってしまいそうでして、今日の最終回に間に合いませんでした。
まだ半分も書いていないはずなのに100行超えとか、自分でもすこし引いています(笑)
最後までかけるかも謎なので、一応それように作った表だけペタッと貼っておこうかと思います。
こんなかんじで時間がかぶっています。という、「だから?」という表です・・・・
↓クリックすると大きくなります。
最後までおつきあいいただきましてありがとうございました♪
明日からはサクッと「勤労淫乱女子」を何話かアップする予定です♪
よろしければあそびにきてやってください♪
ではでは!!
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