蛇の涙#10～優しいキス～

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リョウ 編

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ここは・・・どこだ？

俺は寝ていたようだった。

前髪をかきあげながら上体を起こし、あたりを見回す。

・・・ああ、あの女の家か。

俺は眠ってしまったのか？

他人の前で寝るなんて、この『仕事』をするようになってから１度も無かったのに。

何時だろう・・・。どれくらい眠っていたんだ？


その時廊下で人の喋る声が聞こえた。

桃子と・・・安西代議士の声だった。

俺は身構える。

ひとんちのベッドで裸で寝ているんだ。なんの言い訳も出来ない。

息を潜め、廊下の会話に耳を澄ます。

「では◯◯県の選挙応援に行ってくるよ。」

「はい、あなた。いってらっしゃいませ。」

玄関には俺の靴が、と、思った矢先、入り口のドアの脇に俺の靴が置いてあるのが目に入った。

桃子、か？いや、桃子しかいないだろう。

俺は起こした上体を再びベットへと沈める。

目の上で両手の指を交差させる。

あの女の考えていることがわからない。

なんで俺はあの女を支配出来ないんだ？


玄関の方で鍵が閉まる音がする。

スリッパの乾いた音がパタパタとした後、ドアの前で止まった。

しばらく、たぶんほんの数秒だと思うが立ち止まった後、再び音がなり出して、そして遠ざかっていった。

・・・。

俺は指の隙間から天井を見つめる。

代議士の妻。世間知らずのイイトコのお嬢さん。

アッサリとてなづけるはずだったのに。他の女と何が違うんだ？何が違ったんだ？

そもそも、なんで俺はこんなところで寝ているんだ？

関係を持った女の家で寝るなんて、こんなこと１度も無かった。長く一緒にいればそれだけ俺の素性がバレる可能性が高くなる。

・・・いや、俺はバレても構わない。むしろ罪に問われたい。誰か俺を罰してくれ。俺を戒めてくれ。誰か———

コンコン

その音に俺はハッとして我にかえる。

ドアが軽くノックされた後、お盆を持った桃子が部屋へ入ってきた。

「お腹空いたでしょ？食べて。」

そう言って笑いながらベッドの横のテーブルに置く。

柔らかな湯気をたてた土鍋の中に、粥が炊かれていた。

「・・・なんで、粥？」

桃子は鍋から茶碗にお粥をよそりながら答える。

「・・・リョウ。あなた、弱ってるから。」

「・・・は？」

「今にも死にそうな顔をしてる。夜は寝れてるの？ご飯は食べてるの？」

なんだ？何が始まったんだ？

「はい、起きて。胃に優しいものを作ったから、少しお腹に入れなさい。」

「・・・母親かよ。」

俺がそう吐き捨てると、桃子は少し驚いた顔をした後、クスッと笑った。

「私、子供いないから。子供ができたらこんなかんじなのかしらね？リョウ、あなたお母さんは？」

「・・・いない。記憶もない。」

なんで俺はこんなに素直に答えているんだか。

・・・キケンだ。

「・・・ダンナは？」

「地方議員の選挙応援で、３日間帰ってこない…。」

・・・キケンだ、この女はキケンだ。俺の中にスルッと入ってくる。

「ダンナの留守中に若い男を囲うのか。あんたも悪い女だな。」

・・・ニゲロ。この女から、ニゲロ。

「そう、ね。悪い女だと思う。」

桃子はそういうと、俺に向き合うように、ベッドの淵へと腰掛けた。

そして俺の頬に指で触れる。

「リョウ。あなたの寂しそうな目が気になってしょうがない。あなたにそんな目をさせているものは何？」

そう言って俺にそっとキスをした。

優しい、優しいキスだった。



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明日は祝日ですが、今のところ更新する予定ではおります。←すみません、今の所とかあやふやすぎて（笑）

そしてそして。

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