俺様王子とヒミツの契約#60～抗えない命令～

リビングに入ると、ソファに座っている桃太郎がまりあの目に入った。

桃太郎の目は、まりあの後ろの男をまっすぐ睨んでいた。

「人間風情に隷属された間抜けな弟の顔を見に来てやったぞ。」

「別にお前に見せるような顔は持ち合わせていない。」

まりあは桃太郎と男の顔を交互に見る。

その様子に男が気がつき、まりあににっこりと笑いかける。

「俺、アレの兄。あのマヌケとは半分だけ血がつながってる。」

そう言ってまりあの首に爪をたてる。

「まりあチャン、美味しそうだね。どこを食べて欲しい？」

首筋を舌で舐めると、その舌を尖らせ耳の中にねじ込む。

「まりあから離れろ。それは俺のものだ。」

その言葉に男は目を丸くする。

「へぇ、意外。お前、人間の女に惚れてるのか？」

「うるさい。早く汚い手をどけろ。」

その言葉に、男の笑顔が消える。

「汚い…だと？」

男がまりあが持っているケーキの箱に気がつき、まりあに耳打ちをする。

「…桃太郎。ソファから降りて、床に跪きなさい。」

———こんなこと、いいたくないのにっ。

まりあの口からは、男に命じられたままの言葉が紡がれる。

桃太郎は屈辱に顔を歪めながら、それでも床に膝をついた。

男はその桃太郎の姿を歪んだ笑みを浮かべながら見下ろすと、まりあの手からケーキの箱が入った手提げを奪い、桃太郎の前に投げつける。

「頭から被ってもらおうか。さ、まりあチャン。命令して。」

まりあは頭をふるふると小刻みに振るが、口が勝手に動き出す。

「…桃太郎。ケーキを …。頭か…ら…かぶ…りなさ…い……。」

桃太郎は男をにらんだまま、床に転がりむき出しになっているケーキを掴むと、頭の上からまるで帽子でもかぶるかのごとく、躊躇なく頭から被った。

その様子を見て、男が指を指して笑っている。

頭の上のケーキがぼろりと崩れ、桃太郎の鼻先をかすめて床に落ちる。

桃太郎は鼻の頭を手の甲でぬぐいながら、男を睨んでいる。

「なんだよ、その顔。」

男は笑うのをやめ、桃太郎を睨み返す。

「お前のその目が気に食わない。ていうか、お前の存在そのものが気に食わないんだよね。お前に王位をとか言ってる不届きな奴もいまだにいることだし。」

ふたりは睨み合い、目を逸らさない。

「まりあチャン。こいつ、いらないから。死んじゃってもらおうか♪」

まりあは驚いて目を見開く。

———いや…。いやっ。

「じゃあ、まりあチャン。サクッと命令しちゃって♡」

男はまりあに向かって、にっこりと微笑んだ。



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