【妄想彼氏番外編】ヨコシマな願いは叶わない #04

「祐介、遅いなぁ……。」

リビングのソファで膝を抱えるようにして座っている遥は、思わずそう呟いた。

人が挨拶をしにくるだけ、と祐介は言っていたが、病院の院長ともなると、その数は尋常ではないのだろう。祐介は口にも態度にも表さないが、疲れて休みたいと思うことだってあるだろうに、自分の気持ちを優先してくれているのだ。そう思えば少し待たされるぐらいなんて事はない。遥はそう思っていた。

「そうだ。」

遥は抱えていた足を下ろし、そのまま勢いよく立ち上がった。

「祐介の部屋、ちょっとのぞいちゃおう♪」

一旦廊下に出て、すぐ横にある部屋にはいる。
そこはモノトーンで統一された祐介の寝室だった。

「ダーイブ！」

遥は祐介のベッドにジャンプしてうつ伏せに寝転がった。

「祐介の匂いがする♪」

やさしい香りに包まれ、遥はふふっと笑う。

『遥、今日は君を帰さないよ』
「祐介っ。あっ。」

祐介とのキスを想像して枕を抱きしめ顔をつける。

「祐介っ。激しっ。」

枕を抱えながらベッドの上を何回か転がり、ムクッと起き上がった。

「……むなしい。」

遥はため息をつくと立ち上がり、壁際にある本棚へと歩み寄ると、眉をしかめる。

「さっぱりわからない～」

そこには医学書や病院経営など、学生である遥には無縁の本がズラリと並んでいた。
その中でもよく使い込まれている本を１つ取り出し、ページをめくる。

「………何語？」

書かれている文字は間違いなく日本語なのだが、遥には遠い異国の言葉に感じた。まったく理解できないのだ。

ーーー理解できないのって、さびしい。

「春奈さんなら、理解できるのかな……。」

口に出し、更に落ち込む。

そしてそれに追い討ちをかけるように、本の間から写真が一枚落ちた。

写真を拾い上げ、そのままの体勢で固まる。
遥の息が止まる。


ーーーゆ…うすけ？

そのとき玄関でカチャカチャと鍵をあける音がして、遥は慌てて写真を本の間に挟み直し本棚に戻した。
そしてベッドの上に寝転がり、入り口に背を向けて寝たふりをする。

寝室のドアが開き、足音を忍ばせながら祐介が入ってきた。パタンパタンとクローゼットを開け閉めする音がする。

そして部屋を出ていった。

祐介の気配がなくなり、遥は身を起こす。
ホロリとその瞳から涙がこぼれ落ちる。

「泣いちゃ…ダメ。」

そう言葉に出したら、余計に涙が溢れてきてその頬に幾重にも筋を作った。

「目が腫れたら…泣いてたのバレちゃう……。」

そういって涙を拭い、頬をパンパンッと強く叩いた。

部屋を出て祐介の気配を探る。どうやら祐介はシャワーを浴びているようだった。
遥はほっとしてキッチンに立つと、料理を温めはじめた。

「いい匂い。」

ドアを開け、髪をタオルで拭きながら祐介が部屋に入ってきた。

洗ったまま整えられていない髪。
あげられている腕に隆起する筋肉。
いつもは着痩せして見えるのか、たくましい筋肉がうっすらと浮かぶタンクトップ。
だぼっとしたシルエットなのに、すらりとして見えるスウェットパンツ。

「何？そんなに見入っちゃうほどいい男？」

「うん。」

祐介がボケたつもりで言った言葉を遥は真顔で返す。

祐介は逆に恥ずかしくなり、照れながら遥の手元を覗き込んだ。

「お、美味しそう。作ってくれたんだ。さんきゅ。」

そういって遥の頭をグリグリ撫でた。
その手の下で、遥は複雑な顔で笑っていた。




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