淫猥病棟#13~冷たい雨~
その後の記憶はない。
かすかに祐介がごめんと言った気もするが、春奈は祐介のマンションをでて、フラフラと歩いていた。
雨が降り出し、春奈のカラダを激しく打ちつける。
メイン通りから何本も入った路地裏は雨のせいか人の行き来もなく、春奈だけがポツンとその世界にいた。
---なんで、なんであんなこと言っちゃったんだろ・・・。背中じゃなくて、私を抱いて欲しかったのに。私を愛して欲しかったのに。
手のひらを上にを少しあげ、空を見上げる。
雨は容赦なく春奈を打つ。
---私、先生のココロが欲しかったの・・・。ダメだって言われても、欲しかったの・・・
春奈はよろけると、雨水が溜まった路面に膝をついた。
薄れて行く意識の中、誰かが自分を呼ぶ声がした。
「・・・」
春奈が目を開けると、懐かしい昭和の匂いがするような、天井が視界に入ってきた。
その視界に子供の顔が割り込んでくる。
「あっ。お兄ちゃんっ。お姉ちゃんが目を覚ましたよっ」
年は10歳ぐらいだろうか。
小学校中高年ぐらいの男の子が、パタパタと走って行く。
すると、今度は小学校低学年ぐらいの女の子が、春奈のことを覗き込む。
「お姉ちゃん、だいじょぶ?」
春奈は弱々しくニコッと微笑むと、女の子は赤い顔をして、お兄ちゃん~っと、走って行ってしまった。
「ここ、どこだろう・・・」
「目が覚めたか?」
男性がトレイを片手に、鴨居に頭をぶつけないようかがみながら部屋の中に入って来た。
黒髪で前髪が少し長く、切れ長の目にかかっている。TシャツにGパンというラフな格好の下には鍛えていそうなしなやかな筋肉があった。そのモデルのような体型は、少し祐介に似ていた。
春奈は起き上がろうとするが、頭がくらっとして起き上がることができなかった。
「あの・・・」
男性はトレイをテーブルの上に置くと、春奈の額に手をあてた。
「まだ、少し熱があるな。」
「あ、あの・・・」
「ん?ここか?ここは俺んちだ。道の真ん中で倒れているアンタを見つけて、ここに運んだ。」
「ありがとう・・・ございます。」
「ん。」
男性は無口なのだろうか。
春奈がどうしてあんなところで倒れていたかということも聞かない。
「起き上がれるか?汗をかいているだろうから、一度着替えた方がいい。」
「うん・・・」
男性に背中を支えられながら、春奈は体を起こす。
Tシャツが汗を吸って肌に張り付いている。
上気した頬に熱のせいでトロンとなっている目もと。体に張り付いたTシャツ。そんな少し色気のある光景を目の前にしても、男性は動じずにいた・・・ように見えた。
「これ、汗拭き用のタオルと、着替えのTシャツとスウェット。1人でできるか?」
熱のせいか、春奈は意識が朦朧としていた。
「ったく。」
男性は後ろにいる子供たちに声をかける。
「おい。健太、愛。お前たちちょっと向こうの部屋に行ってろ。」
はーい、と不満そうに子供達が部屋を出て行くのを確かめると、男性は春奈を再び寝かせ、Tシャツを脱がした。
「ったく世話の焼ける女だな。愛と変わらないぞ。」
そういうと首すじから胸元にかけて吹き出している汗を拭う。
男性は努めて事務的に接している。
スウェットも脱がし、尻や太ももも拭きあげる。
新しいTシャツとスウェットを着させると、トレイに乗せてきたスポーツ飲料を手に取り、春奈にすすめるが反応がない。
「ったく」
それがこの男性の口癖なのか、イラついた表情を見せた後、春奈の背中の下に手を入れ上体を少し起こすと、口にスポーツ飲料を含み、春奈に口移しで飲ませた。
唇が離れると、春奈は涙をひとしずく流していた。
それを見た男性は、絞り出すようにつぶやいた。
「ったく、なにがあったんだよ。葛西。」
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