淫猥病棟#37~2人のバカ~
時を遡る事数時間前。
祐介は医療法人財団佐伯会の理事長室を訪ねていた。祐介の父親である祐一郎がそこにいた。
「ダメだ。許さん。」
祐一郎は冷たく言い放った。
祐介はギュッと拳を握る。
「なぜ?人一人がさらわれたのに?」
祐一郎はかけていたメガネを外し執務机の上におくと、指を組んで口の前におき、祐介をジッと見た。
「なぜ、特別病棟にいると言い切れるのかね?」
「病院の敷地内で、その子を乗せた車が目撃されている。」
「それだけでは理由にはならん。」
祐介は言葉に詰まる。
祐介は祐一郎には到底言えない方法で、ナースたちを尋問していた。
そこではじめて、春奈は特別病棟にいる綿貫代議士に帯同する為に公欠扱いになっていると聞いた。本当は朝ミーティングに出ていれば知っていた話だったが、緊急の処置にあたっていたため、聞いていなかった。
綿貫代議士は女好きで、気に入ったナースがいると、コーディネーターと呼ばれる者に仲介をさせ、相手をさせるらしいという噂は前からあった。
そこで、第一外科を問わず、声のかかったと噂されたナースたちを"尋問"した。
そのうちのひとりが、特別病棟内で抱えられている春奈らしき人物を見たと言った。
彼女達は特別病棟へは視界を遮られ出入りしていた為、特別病棟への出入口はわからないと言う。
もちろん病院の施設であるため、院内からの出入りも可能だが、その出入りする為の扉は施錠され、特別なICカードがないと開錠出来ない。そしてそのICカードは、院長レベルの許可が必要になる。しかし、それとは別に建物内にはいるルートがあるらしい。
その閉鎖された特殊な環境下、謎の組織が暗躍しているという噂があった。
医療機器メーカーとの癒着、政治家へ便宜をはかってもらうための賄賂。色と欲にまみれた世界がそこにあるとされていた。
いずれも佐伯会としては明るみになれば致命傷となるだけに、理事長である祐一郎は特別チームを編成し内偵させていた。
祐介は内偵チームではなかったが、支障にならないよう、そのチームの存在自体は知らされていた。しかし誰がそのメンバーかは知らされていない。
そして今、祐介は特別病棟へ続くドアを開ける為のICカードを、祐一郎に要求し、にべもなく断られていた。
「いいからカードをくれよ」
感情をぶつけるかのように机を両手で叩く。
祐一郎は驚きもせず、祐介を見上げる。
「祐介。中央病院を辞めて、経営陣に加われ。」
「は?」
「経営側に回るのであれば、現場を経験してからが良いかと思ったが。お前は医師には向いていない。そんなに感情の起伏が激しい者は医師たる資質など無い。」
「・・・」
「わかったら病院に戻り引き継ぎをしてきなさい。」
「わかった・・・」
そうか、わかったか、と言いかけた祐一郎の声にかぶせるように祐介が話す。
「あんたを頼った俺がバカだった。俺は勝手にやる。あんたにはもう頼らないっ。医師も辞めないっ」
そういうと祐介は部屋を出て行った。
「あのバカ。」
そういうと机の上のインターフォンを押す。
「はい。秘書室です。」
「高瀬をよこしてくれ。」
「はい。かしこまりました。」
しばらくして秘書のひとりである高瀬が理事長室に現れた。
高瀬は祐一郎の父親である故・虎二郎の執事兼秘書をしていたが、虎二郎亡き後、佐伯会理事長である祐一郎の秘書室に務めていた。
「およびですか?」
「あのバカのフォローを頼む。」
「あのバカとは、どちらのバカでしょうか?あなた様ですか?祐介様ですか?」
祐一郎はため息をつく。
「一応私はお前の上司なんだが。」
「私にとって主とは、虎二郎様しかいらっしゃいません。祐一郎様は慎重になり過ぎるキライがあると、常々虎二郎様はおっしゃってました。」
「親父のようにカリスマ的なチカラを持っていないんでね。高瀬。祐介につけ。」
「かしこまりました。」
祐一郎の様子が何処と無くおかしい事を、高瀬は感じ取っていた。
「他に何か気を揉まれていらっしゃることが?」
「・・・今回の相手は綿貫代議士になるかもしれん。知っているな?あいつのしたことを。」
「はい。佐伯家の事は何でも存じております。」
「・・・涼介に知らせず、涼介もまもってやってくれ。」
「・・・善処しますが、この身が一つしかございませんので・・・」
「頼む・・・」
「・・・。きっと虎二郎様も同じ事を言われたと思います。無茶を言うのは佐伯家の血筋のようですね。かしこまりました。」
ドアまで行ったところで、振り返った。
「危ないところに置いておきたくない、と、祐介様にお話されれば良いではないですか。」
「聞いていたのか?」
祐一郎の問いかけを無視して高瀬は話し続ける。
「ましてや今回はあの綿貫が絡んでいる。涼介様の時にした後悔を、祐介様ではしたくないと、素直にお話されてはいかがですか?」
そういうと高瀬は祐一郎の反応も確かめず、部屋を出て行った。
祐一郎は額に手をあて、深いため息をついた。
そのあと、ぎりっと歯を噛みしめる。
「綿貫め…。どこまで佐伯家を愚弄すれば気が済むんだ…。」
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