淫猥病棟#113~重なる想い~
「は・・・・るな・・・・?」
突然の出来事に、祐介は言葉が出ない。
やがてドスンという春奈が地面に叩きつけられた音で我に返る。
「春奈---ーっ」
「葛西っ!。祐介っっ!」
春奈のもとに祐介と黒羽が駆け寄る。
「春奈っ。春奈ぁっ。」
祐介が取り乱し、叫んでいる。
「祐介、お前は?」
「春奈がっ。俺を突き飛ばしてくれて、俺はなんともないっ。春奈っ。春奈っっ。返事をしろっ。春奈っ。誰かっ。ストレッチャーをっ。オペ室まで運んでくれっ。俺が執刀するっ。」
「祐介っ。その腕じゃ無理だっ。」
黒羽がたしなめる。
「無理じゃないっ。クロ、前立ちしてくれっ。」
手術室に入ると瀕死の春奈が手術台の上に寝かされていた。
「内部損傷が激しい。このままだと間に合わない。祐介、ダブルチームで行くぞっ。」
黒羽がそう言うと、二手に分かれて処置を始めた。
天使のメス、孤高のメスが一つとなり、春奈を助けるためだけに動く。
祐介の気迫が黒羽の集中を高め、黒羽の集中が祐介の技術を高める。お互いがお互いを高め合い、二人のスピードと精度がどんどん上がっていく。
「すごい…」
手術室を見下ろすことのできる別室では、誰もが2人の神がかりな手技に息を飲む。
「血圧、上がりませんっ」
モニターを覗いていた技師から声がかかる。
「どこだ?出血点がまだあるはずだ。どこにある?!」
祐介と黒羽が一緒になり、出血点を探す。
「肝臓を持ち上げてみろ」
不意に後ろから声がかかり、祐介と黒羽は言われた通り肝臓を持ち上げる。
肝臓の裏からジワリと血が滲み出る。
「出血点だっ。こんなところに。」
「そうだ。症例は千差万別だ。目を配れ。見落とすな。術野に盲点などない。」
声の主は田代だった。
しかし2人は田代の方を向かず、さらに術野へと集中する。
---それでいい。
田代はそんな2人の姿を見て、満足げに微笑むが、モニターを覗き、すぐに表情を引き締める。
---春奈チャン、がんばれ。君はまだ死んじゃならんっ。俺をあの改革案に引っ張り出したのは君なんだろ?責任をとるまで、逝かせやしない。
「これで、全て処置した。」
祐介が静かに言った。
皆が春奈に注目している。
「春奈。」
「葛西。」
二人が春奈に声をかける。
「「戻ってこいっ。」」
祐介が右手を、黒羽が左手を握り、春奈に呼びかける。
「「俺たちを残して、逝くなっっ。」」
---もう、俺のことを選んでくれなくていいっ。春奈っ。君が助かればそれでいいっ。お願いだっ。春奈っ。目を覚ましてくれっっ
---葛西っ。目を開けてくれっ。いつもみたいに笑ってくれっ。もうついて来てくれなんて言わない。君が笑ってくれればそれでいいっ。
2人の想いが重なる。
---君が、幸せであれば、それだけでいいっ。
春奈の閉じられた目から、涙がひとしずく、流れ出た。
「血圧、戻りましたっ!」
術中管理の技師が興奮気味に伝える。
春奈の手を握っているのとは逆の手で、2人は春奈の上で握手をする。
目で語り合う。
よかった。
本当に良かった。
「クロ、閉腹を頼んでいいか?」
「ああ。」
黒羽が閉腹している手元を、祐介は見ていた。
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