淫猥病棟#114~言葉は要らない~
春奈が手術室から集中治療室へと運ばれる。
「続いて、腕の神経縫合の手術を行う。みんな、連投で悪いが準備してくれ。」
黒羽が祐介を除くスタッフ全員に言う。
「えっ?」
祐介は驚いて黒羽を見る。
「さっき握手した時、お前、全然握力がなかったぞ。辛うじて繋がっていた神経が切れただろ?途中から片手は添えるだけだったじゃないか。」
「クロ・・・」
「気を失ってもおかしくないぐらいのひどい痛みだっただろうに。この強情っぱりめ。」
「はは…」
祐介がフラッとするところを、田代が後ろから支える。
「おい、祐介。しっかりしろ。」
「はは・・・。シロチョー、いたんだ…。」
「お前がいつぶっ倒れてもいいようにな。それなのにお前って奴は最後まで踏ん張りやがって。いいツッパリだ。」
「なに?その表現・・・。わけ、わかんな・・・」
祐介の体からガクッと力がぬける。
「準備急げっ」
黒羽と田代が二人で一旦手術室から出る。
黒羽は春奈の手術をした為、田代は今祐介を抱きかかえた為、着替えて消毒作業を行っている。
ブラシで爪の先から肘の上まで、まんべんなく洗い上げる。
2人は無言だった。
無言で肩を並べ、手を洗っている。
---でかくなりやがって。カラダも、心も。
田代は、油断すると目頭が熱くなりそうな、そんな感情を必死に飲み込む。
---黒羽先生。ありがとう。俺に透を残してくれて。俺と頼子の子供は世に出てくることは叶わなかったけど、透がそばにいる時だけ、荒んで真っ暗な心に、灯りがともった。黒羽先生。俺の、自慢の息子って思ってもいいですか?俺の、おそらく最後となるであろう手術の執刀医が透で、俺はこんなに嬉しいことはありません。頼子と子供を奪った悪しき医療制度はきっとあいつらがなんとかしてくれる。透ももうじきここを巣立っていく。俺に、もう、思い残すことはありません。
目をつぶり、しばらく上を向いていた田代が、ゆっくりと顔を元の位置に戻し、黒羽の方に向ける。
「透」
黒羽が田代を見る。
2人の視線の間に、暖かいものが宿る。
どちらからともなく、フッと笑う。
「いくぞ。」
田代が一歩踏み出す。
「ああ。」
黒羽が後に続く。
二人の間に、言葉はいらなかった。
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