淫靡な研究室2#05~痴情のもつれ~
「逆行性健忘、いわゆる記憶喪失です。ご自分に関する事だけ、ぽっかりと記憶がないようです。」
診察室で、医師が淡々と説明する。
医師の目の前には涼介が座っており、その後ろに高瀬と弥生が控えている。
医師の言葉を、高瀬と弥生は黙って聞いている。
「脳のCTにも異常は認められませんでしたし、外傷による記憶障害ではないと思われます。しかし佐伯涼介さんは頭を強く打たれているようですので、経過を注意深く観察しながら様子をみていきましょう。」
担当医が高瀬に説明している横で、弥生は涼介を見ていた。
無表情で押し黙っている涼介は、心を閉ざした時の涼介に似ていた。
そんな涼介を見ていると弥生は胸が締め付けられる。
涼介さん。また冷たい表情。
「・・・さま。立花様っ。」
高瀬の声に、現実へと引き戻される。
「お気を強く持ってください。一過性のものです。大丈夫です。」
真剣な高瀬の表情に、弥生は笑みを返す。しかしその表情はどこか強張っている。
「大丈夫です。大丈夫ですから。」
その瞬間、弥生の張り詰めていた糸が切れたかのように、大粒の涙がボロボロとこぼれていく。
「涼介さんが。涼介さんがっ。」
高瀬は弥生の頭を撫でながら、キュッと抱きしめた。
高瀬の腕の中で、弥生はしばらく泣いた。
それを、涼介は黙って見ていた。
「私、涼介さんの着替えを取ってきますね。」
涼介の洋服は怪我を負った際に破れてしまったようだった。その為、着替えが必要だった。
弥生は高瀬が止めるのも聞かず、病院を後にした。
とにかく今自分にできる事をしなければ、そう思い、自分を奮い立たせていた。そうしていないと、泣き続けてしまいそうだと弥生は思っていた。
涼介のマンションに着くと、合鍵を取り出す。
以前涼介が理事長就任前の多忙時に時間を作って温泉旅行に行った、その帰りに渡された鍵だった。
いつでも来て構わない。
そう言ってもらった鍵だったが、そのあと弥生が入院したりして、使ったことがなかった。
「初めて合鍵を使うのが、こんな時なんて…。」
そう言うと鍵穴に鍵を差し込もうとしたその時だった。
男が影から数人飛び出してきて、弥生の腕を掴むと壁に押し付けた。
「オンナ、ここで何をしている?!」
そのうちの1人が弥生に声をかける。
弥生は恐怖で声が出せずにいた。
「なんだ、また、あんたか。」
不意にその場にはふさわしくない間の抜けた声をかけられ視線をそちらに向けると、先程涼介の病室で会った刑事が立っていた。
「おい、離してやれ。その子は関係ない。」
弥生を掴んでいた手が離され、弥生は掴まれていたところをさする。
「何しに来た?ちょろちょろするな。目障りだ。」
「・・・着替えを取りに来ただけです。」
刑事はふーんといった顔で弥生を見下ろす。
「我々も立ち会う。」
「え?」
「証拠隠滅の恐れがあるからな。1人で中には入らせん。」
弥生はその言葉に絶句した。
そして、徐々に怒りがこみ上げてきた。
「私が、涼介さんをあんな目に合わせたって言うんですか?!」
刑事がニヤッとわらう。
「痴情のもつれってやつは、往々にしてあるもんだ。」
弥生はキッと刑事を睨んだ。
刑事も笑いながら弥生の様子を伺っている。しかし、その笑みが突然消えた。
弥生が、涙を溜め、そして一筋流れ落ちた。
「私が涼介さんにあんなことをするわけがないじゃないですか・・・。」
弥生の純真な涙に、刑事はのまれていた。目をそらせずにいた。
はっと弥生は我にかえると、涙をぬぐい、鍵穴に鍵を差し込んだ。
「どうぞ。一緒に入ってください。」
そう言って刑事を招き入れた。
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