淫猥病棟#21.5～三者三様～

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黒羽編

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葛西と別れた後、俺は道路わきに停めていたバイクに寄りかかり、自分の手を見ていた。

さっきまで、葛西をつかんでいたその手には、柔らかい感触が残っている。


あれじゃまるで告白だ。


いつになく軽率な自分に自嘲めいた笑いがこみ上げてくる。



今の葛西に自分の想いなんて押し付けたって、あいつが混乱するだけだ。

傷が癒えるのをゆっくり待つつもりだったのに。



ったく、俺ってやつは。

葛西が絡むと、ぜんぜん冷静じゃいられない。



・・・そろそろ帰るか。


そう思い、バイクのスタンドをあげようとした時、横を歩いている女性達の会話が聞こえてきた。



「ね、すごかったね。さっきの２人。ドラマみたい。」

「かっこいいよね。フェラーリでしょ？あれ。柵をヒラっと乗り越えて、いきなりキスだもんねー。」

「でもさ、なんか女の人の方、少し引いてなかった？」

「うんうん。なんか、少し怖がってた？」

「えー。フェラーリに乗ったストーカー？まさかぁ。」



俺の心臓がドクンと鳴った。

あいつだ。祐介だ。

俺は弾かれたように走り出す。

人混みをかき分け、走るその先に葛西と祐介が見えた。

「葛西っ。葛西っっ。」

俺は力の限り、葛西の名を叫んだ。



葛西の口が俺の名前を呼んだように見えた。

祐介は俺を目の端で捉えると、葛西を抱きかかえ助手席に押し込んで車を急発進させた。


「くそっ。あのバカ、なにやってんだっ。」


俺は車の走り去った方向をずっと睨んでいた。


やっぱり寮まで送って行けば良かった。

改札まで、いや、せめて駅の階段まで送れば良かった。

何やってんだ、俺。

あんなに嫌いだった"後悔"という言葉が、再び俺を支配していた。

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祐介編

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なぜだろう。

なぜだか、春奈は黒羽のところにいると思った。


学生の頃から、黒羽の家には何度か行ったことがある。

高校三年の時に親父さんを亡くして以来、一人暮らしだったあいつの家は、俺たちの格好の溜まり場だった。

酒を片手に日本の医療について語り合ったこともあったし、どこそこのナースはレベルが高いなんてくだらない話もした。

それが医師として働き始めた年のある日、家族が出来たからもう来るなと突然言われた。

溜まり場を失った俺たちは、それでもあいつの家に転がり込んだが、思わぬ光景を目の当たりにして絶句していた。



あいつが。黒羽が子供を育てている？！しかも２人も？？？



家族が出来たっていったら、普通同棲とか結婚だろ？

いきなりすっ飛ばして、しかも相手もいないのに子供かよ？

無茶を通り越して、無謀だろ？無謀すぎだろ？

俺たちは医師としてスタートラインに立ったばかりだ。

覚えなければいけないことは気が遠くなるほどあるし、手技だって磨かないといけない。

時間なんて、あるようでぜんぜんないんだ。

何を考えてるんだ？


後から聞いた話によると、離婚して黒羽のもとを離れていった母親と再婚相手との間にできた子供らしい。


それをなんでお前が面倒見なきゃいけないわけ？

ほんと、わかんないヤツ。



その頃巷では"◯◯王子"って名前をつけるのが流行っていて、あいつには"苦労王子"って名前がついた。

名付け親はシロチョーだ。

好きで苦労を背負い込むタイプだからという理由らしい。


そう。それが変化して現在"黒王子"な訳だけど、それとセットで俺が"白王子"って呼ばれるのが、少し気に入らない。

何でも名前に白が入っているかららしいんだけど、あいつのオマケみたいで、正直不愉快だ。

あいつは昔の涼介タイプで、なにもしなくても周りに自然に人が寄ってくる。

俺みたいに愛されるために頑張らないといけないタイプからみると、ほんとムカつく存在でしかない。

だから、お前には春奈はやらない。

あの女は俺のものだ。

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春奈編

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心臓が、止まるかと思った。

駅へ降りる階段の横に停まっている自己主張の強い真っ赤な車。

品の良さそうな細身のディテールの革靴にチノパン。ストライプ柄の質が良さそうな生地のシャツ。

長身で均整のとれた身体。

車に寄りかかりながら緩く組まれている長い脚と腕。

その上には少し斜に構えた不敵な笑顔。でも、目が笑っていない。


怖い。

でも、惹きつけられる。

でも、逃げたい。

でも。

でも。



「捕まえた。」

気がつくと祐介先生は目の前に立って、私の手をつかんでいた。

次の瞬間、視界が真っ暗になった。

あ・・・

クラクラするような、すべてを奪われてしまうような激しいキス。

街中ということも忘れて、祐介先生の舌は私を侵食していく。

カラダもココロもこの人に溺れてしまったら、私は幸せになれるのだろうか？
 
 

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