淫猥病棟#21~包む愛/奪う愛~
その頃春奈は黒羽の家で夕飯を作っていた。
「あー。愛ちゃん上手ー。ジャガイモさんの皮剥けるんだー」
「はいーっ。」
子供用のピーラーで得意げにジャガイモを剥く愛が可愛かった。
横ではやはり子供用の包丁で大根を銀杏切りにしている健太がいた。
「健太くんもすごーい。みんな、おねーさんより上手~っ」
その様子を居間で微笑みながら黒羽が見ていた。
昨日のお礼を兼ねて、夕飯を作りに来たのだった。
ひとりで作ろうとしたところ、子供たちが手伝うと言って聞かなかった。
「今日はありがとう。健太も愛も、すごい喜んでた。」
「いえ。私のほうこそ、とっても楽しかったです。」
すっかり遅くなり、バイクのエンジンをかける音が迷惑になるといけないので、バイクを押しながらメイン通りまで歩いているところだった。
「あのね、先生。」
「病院の外では透でいいよ。」
優しい目をして、黒羽が言う。
その目に春奈は少しドキンとする。
「透ちゃん?」
「いや、透で・・・」
少し和んだ後、春奈は小さな紙袋を取り出した。表面には手芸店の羊のマークがある。
「これ…」
「?」
黒羽が中を確認すると、ボタンが入っていた。
「せ・・・透さんがつけてくださったボタンと同じものは売っていなかったので、愛ちゃんに似合いそうなボタンを探してきました。あの、ありがとうございました。」
「うん。わざわざありがとう。・・・あのさ、これは医者として聞くんだけど・・・。カラダの方は大丈夫?」
「大丈夫ですっ。クスリも飲まなくて大丈夫です。ありがとうございますっ」
黒羽はため息をつくと、バイクをとめ、春奈の両腕をつかんだ。
「無理して笑うなよ。」
「・・・」
「少なくとも、俺の前では無理しなくていいから。普通でいろ。」
「・・・そんな事・・・」
黒羽は何も言わず春奈を見つめる。
「そんな事言われたら、弱い自分が、出ちゃうじゃ、ないですかっ。」
ぶわっと涙が吹き出た。
黒羽は春奈を引き寄せ、強く抱きしめた。
「俺には見せろよ。素のお前を。泣くなら、俺の腕の中で泣け。」
「わぁぁぁぁっ」
春奈は黒羽のシャツをきゅっと掴むと、堰を切ったかのように泣き崩れた。
「ホラ」
近くの公園のベンチに座っている春奈に、黒羽がコーヒーを、差し出した。
鼻をすすりながら受け取ると、春奈は笑いながらクチを開いた。
「これ、お疲れちゃんコーヒーだ」
黒羽は笑うと蓋をあけ、グビリと一口のんだ。
春奈も後に続き、一気に飲み干した。
「お前、一気に・・・」
呆れる黒羽をよそに、飲んだ後缶を片手に、高くかざした。
「エネルギーチャージ完了っ。これより通常の葛西春奈に戻りますっ」
「そうか。」
黒羽はやさしく笑う。
「じゃあ、エネルギー満タンの葛西春奈サンにプレゼント。」
かわいい招き猫のチャームがついた鍵が春奈の手のひらにおかれた。
「おれんちの鍵だ。エネルギー満タンなところで、健太と愛の遊び相手を頼む。やつらの相手はパワーがいるからな。いつでも来い。俺の許可とか、要らないから。」
最初はびっくりした春奈だったが、すぐに笑顔になり、ありがとう、とお礼を言った。
「本当に送っていかなくっていいのか?」
黒羽が春奈に尋ねる。
春奈は笑顔で大丈夫です、と答える。
「もう、駅ですし。まだ電車動いてますし。寮は駅からすぐですから。ありがとうございました。」
「うん。気をつけてな。また明日。」
笑顔で手を振って別れる。
駅に向かって歩いていくと、駅に降りる階段の横に、赤い車が路上駐車していた。
車に寄りかかり、腕と足を組んで立っている祐介と目があった。
春奈は射すくめられたかのように、足が動かない。
祐介は歩道の柵を軽く飛び越え、ゆっくりと春奈の元へ歩み寄る。
---怖い。
祐介の瞳に宿る暗い影に、春奈は理由もなく怯えた。
すぐ目の前に祐介が迫り、春奈の手首を掴み、肩口まであげる。
「捕まえた」
口元は笑っているのに、目が笑っていない祐介の顔から目が離せないでいた。
そのまま祐介は春奈の唇にゆっくりと唇を重ねる。
周りの通行人が、迷惑そうに2人をよけて行く。中にはピュウっと口笛を吹きジロジロと見ながら通り過ぎるものもいる。
祐介の舌が唇を割って入ってくる。
ジンジンとした頭の痺れが、春奈を襲う。
「おいで。」
祐介に手首を引かれ、車の方へ連れていかれる。
「いか・・・ない。いかない。」
祐介は不思議そうな顔をして振り返る。手首を掴んだ手に力が入る。
「なんで?」
「なんでも。」
「理由になってない。」
「とにかく、もう、いかない。」
「春奈。」
---なんで。名前を呼び捨てにされただけなのに、ドキドキしちゃうんだろう。
「春奈、来い。」
---なんで、抗えないんだろう。
春奈は手を引かれるまま、足を一歩踏み出す。
「・・・いっ」
---だれか、私を呼んでる?
「葛西っ」
---と・・るさん?
祐介は春奈を抱きかかえ、助手席に押し込むと、車を急発進させた。
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