淫猥病棟#25～脱がせて～

　
　
出勤すると、第一外科にシロチョーこと、田代救命救急センター長が来ていた。

「お、葛西さん。おはよう。」

「おはようございます。めずらしいですね。外科でお会いするなんて。というか、初めてここでお見かけしました。」

そんな春奈を田代は優しい目で見ている。

「葛西さんって、いい子だね。」

「は？なんですか？いきなり。」

田代は二カッと笑うと、近くにいた福田看護師長に声をかける。

「じゃあ、福田さん。さっきお願いした通り、葛西さんを借りていくよ。」

福田は苦笑いしながら、どうぞ、と言った。

「まったく強引なんだから。シロチョーは。」

「多少ね強引じゃないと、救命なんてやってげないの。じゃあ、わるいね。で、３日ぐらいいいかな？」

「ダメです。せめて今日を入れて２日。それ以上はフォローできません。」

「えー。３日っ。」

「だめです。」

「じゃあ、２.８日っ」

「刻んでくる意味がわかりませんっ」

「ケチ。」

－－－？なんか、漫才？ところで、何？私を借りていくって？？

「じゃあ、いこうか。葛西さん。」

横では福田が敗北感たっぷりの顔で春奈を見送る。

わけもわからず、春奈は田代についていく。

「往診に行くから、付き合って。」

「は？」

春奈は驚いて声をあげた。

「びっくりした。そんなに驚くか？」

田代は丸い目をさらに丸くして春奈を見る。

「救命の先生が、往診って、初めて聞きました。」

田代が二カッとしてこたえる。

「そうかもな。俺も初めてだ。」

春奈はぷっと噴き出す。

「カッコはそのままでいいから。直帰するから着替えと荷物、とってきて。駐車場で10分後に集合！」

「はいっ。」


10分後、田代の車に乗り込むと、春奈は往診先について田代に尋ねた。しかし田代はなぜかはぐらかす。


しばらく走ると、見覚えのある風景になった。

「あれ？ここって・・・」

あたりを見回す春奈に、田代がやっぱりね、と言って声をかける。

「きた事あるんだ。黒羽んち。」

「はい。前に、、、って、まさか黒羽先生の家に行くんですか？」

春奈は驚く。

「そう。あいつ今日休んでてね。どうも相当調子悪いらしい。あいつ少し具合が悪いぐらいだったら、無理して来るのに、来れないって事は相当なんだと思う。」

－－－私を待っていたせい？

春奈が思い巡らしていると、その顔を田代は興味深げに覗き込む。

「なんか、心当たりあるとか？」

「えっ。な、ないですっ」

田代は愉快そうに高らかに笑う。

「これから３日間。君はある人物の付き添い看護師として帯同するという事になっている。第一外科には福田さんからそう言ってもらっているはずだ。でね、その間、黒羽の面倒を見てやって欲しいんだよ。弟たちは小さいしね。あいつが寝込んでると、あの家はまったく機能しなくなると思うから。」

「はい。わかりましたっ。でも、なんで田代センター長がそこまで？」

「シロチョーでいいよ。あいつとはね、昔からの知り合いなんだよ。あいつがいろいろ苦労してきたの知ってるからね。そうだ。あいつが医師を目指したきっかけを、葛西さんにはあいつのクチから聞いて欲しいんだ。これ、宿題ね。」


話がよく見えないまま、黒羽の家についた。

田代が呼び鈴を押すと、少したってから、引き戸がガラガラとあいた。

ぐったりとした黒羽が春奈をみて驚く。

「葛西・・・。」

「おほん。俺もいるんだが？」

田代がわざとらしく咳払いをする。

「あ、シロチョー。」

「なんかムッとくる扱いの差だな。具合はどうだ？葛西さんがきて、違う熱が上がったか？」

「うるせぇ。」

口では悪態をついたものの、キレはまったくなく本当に調子が悪そうだった。

「病人、寝ろ。俺が診てやる。」





春奈がタオルを取りに洗面所へ行ったことを確認すると、黒羽は田代に尋ねた。

「なんで葛西が一緒に？」

田代はニヤリと笑いながら答える。

「お前の体調が、一発で治るんじゃないかとおもってな。」

そんなわけねぇだろ、と言う黒羽を田代は面白そうにみている。

「お前にはいろいろ世話になってるからな。これはお前へのご褒美だ。３日間お前の世話をしてもらうようにお願いしてあるから、彼女に好きなだけ甘えろ。」

「なっ。何言ってんだよっ」

田代は相変わらずニヤニヤしながら、黒羽のうろたえぶりを楽しんでいる。


春奈が戻ってきたのを確認すると、立ち上がり、投薬の指示等をして帰っていった。

「じゃあ、透さん。お体拭きましょうか。」

「患者かよ、俺は。」

「そうですよ。立派な患者ですよ。はーい。上脱いでくださーい。」

面白そうに言う春奈を少しむすっとした顔で見ていた黒羽は少しうつむいた後、妖艶な笑みを浮かべて春奈に向き直った。

「・・・脱がせて。」

 
 

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