淫猥病棟#26～ワガママな患者～

　
　
春奈はドキッとした。

－－－い、色っぽい。

妖しく艶やかに光る黒い瞳に吸い込まれそうになった。

躊躇し固まっている春奈の手をぐいっと引き、春奈を自分の足の間に座らせる。


「もう、特別ですよ。」


ドキドキしている自分を隠すように余裕のある女を演じながら、春奈は黒羽のパジャマのボタンをはずし上着を脱がせた。

熱のせいで少し汗ばんだカラダに、蒸しタオルをあてていく。


「気持ちいい・・・」


黒羽は春奈の頬にかかる髪をかきあげながら、春奈の目をまっすぐに見つめてそうつぶやいた。

春奈は黒羽のあまりの艶っぽさにドキッとした。


－－－女の私より、色っぽい～。完全に負けてるっっ。どうしよう。ドキドキが止まらないっ。


動揺を悟られまいと、次の作業に移ろうとする。


「じゃあ、今度は背中を・・・」


立ち上がろうとする春奈の腕を黒羽が掴む。


「このまま、この位置から拭いて・・・」


－－－それは、その、つまり抱きつけという事ですか？


春奈はドキドキしながら黒羽の顔を伺う。

黒羽は熱のせいか、頬がやや上気して、潤んだ目で春奈を見ている。

春奈は観念してゆっくりと背中に手を回す。

極力目の前の肉体には触らないようにするのだが、胸板が厚くカラダを浮かそうとすると、背中の中心まで手が届かない。


「もっと、くっつけよ・・・」


黒羽は春奈の腰の後ろに手を回し、ぐいっと引き寄せた。


「きゃっ」


手は黒羽の背中に回っている為、頬がダイレクトに胸にあたる。

しっとりとした肌の感触が直に伝わってくる。


「と、透さん・・・」


春奈がカラダを起こそうとすると、黒羽は春奈の肩を抱きかかえる。


「拭けないです・・・」


黒羽の熱い息が頬にあたる。

昨日、唇が触れたその場所に。


－－－あ・・・


その瞬間、黒羽の腕からチカラが抜け落ちた。

春奈にカラダを預けるように倒れこむ。


「えっ。ええっ？！。透さんっ。」


春奈は驚き、火事場のナントカで黒羽の上体を起こした。

そのままゆっくりと布団に寝かしつける。

慌ててTシャツをきせ、布団をかける。

熱を計ると、40度近くになっていた。


「こんなに熱があるのにっ。なにやってんですかっっ」


春奈はあわてて台所にいくと氷嚢を作り、黒羽の頭の下にいれた。


「さんきゅ・・・」


黒羽がかすかな声で礼を言う。


「起こしちゃいましたか？ごめんなさい。でも、ちょうどいいので、薬と頓服薬のんでください。本当は何かお腹にいれた方がいいんですけど、食欲は？」


「ない・・・」


「なにか、食べれるものは？プリンとか、アイスとか、食べたいものはありませんか？」


「・・い」


「え？」


「葛西・・・」


熱っぽい視線が絡みつく。

普段の黒羽だったら絶対に言わない。

これは熱にうなされているだけだ、と、春奈は思った。

「はいはい。冗談はそれくらいにして、薬飲みましょうね。」

春奈は黒羽から視線を外そうとする。

その刹那、ぐいっと手首を引かれ、黒羽の上に倒れ込んだ。
 
 

　

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