淫猥病棟#29~止まる時間。巻き戻る記憶~
トントントン・・・
リズミカルな包丁の音がする。
黒羽は目をうっすらと開け、台所に立つ春奈の背中を見ていた。
---こういうの、いいな・・・
そう思うと、自然に笑みが浮かんできた。
視線に気がついた春奈が振り返る。
「あ、目が覚めたんですか?お粥炊いたんですけど、起き上がれますか?」
「あぁ。寝たら結構楽になった。」
よかった、といいながら、春奈が器をお盆に載せて居間に上がってくる。
春奈はもう白衣から普通の服に着替えていた。裾からレースが少し覗いているアイボリーのフレアスカートに、パステル調のラベンダー色のカットソーとカーディガンのコンビ、その上に黒羽の黒地のエプロンをつけていた。
「俺のエプロン、似合うな。」
「え?そうですか?ありがとうございます。勝手に借りてます♪でも、ちょっと大きくて。」
そういうと大きさを調整する為に幾重にも腰に巻かれた紐の部分を見せる。
---細っ。ヤバい。
それでも何とか欲情した心を理性で押さえつけると、春奈の作ったお粥を食べはじめた。
「美味しいですか?」
春奈がお盆を胸の前に抱えて心配そうに顔を覗き込んでくる。
「ああ。うまい。見た目はひどいけど」
「見た目はひどい、だけ、余計です。でもよかった。クチにあって。」
春奈は満面の笑みを浮かべ喜んだ。
---ったく、なんでいちいちかわいんだ。くそっ。
「愛ちゃんたちは、何時ごろ帰ってくるんですか?」
「ん。寄り道してこなければ、2~3時かな?」
「なんか、雲行きが怪しいんです。雨が降りそう。」
「そうか。早く帰ってくればいいな。と、ご馳走様。うまかった。」
「じゃあ、お水持ってきますね。薬飲んじゃってください。」
立ち上がり台所へ向かう。
コップを片手に冷蔵庫からミネラルウォーターを出したその時。
閃光が走り、雷の音が轟いた。
途端にバケツをひっくり返したような雨が降り始める。
雷の音と同時に、コップが割れる音がした。
「葛西?」
黒羽はカラダを斜めにして台所を覗き込む。
春奈の姿が見えない。
不安にかられた黒羽は立ち上がり、台所へ降りると、床にうずくまり耳を塞ぎながら震えている春奈を発見した。
黒羽は春奈の元へ駆け寄る。
「あ・・・」
涙を浮かべ震えていた春奈は黒羽の姿を見上げると、黒羽にすがるように抱きついた。
震える春奈の肩を抱き、頭を優しくなでる。
「大丈夫だ。もう、大丈夫だ。」
「ごめ・・・なさい。突然、鳴ったから。心の準備が・・・出来てなくて・・・雷、だめ、なんです・・・」
黒羽はぎゅっと春奈を抱きしめる。
春奈は黒羽のシャツを掴んでいる手をさらにきゅっとしめた。
その手は細かく震えている。
黒羽はその震える手を、自身の手でそっと優しく包み込む。
「・・・ハルちゃん。」
春奈はビクッとして黒羽を見上げる。
「泣かないで。ハルちゃん。」
「クロ・・・くん?」
2人の間の時間が止まったかのように、2人とも見つめあったまま動かなかった。
春奈は驚いて目を見開き、黒羽をつかんでいる手に力がはいる。
先にクチを開いたのは黒羽だった。
「忘れているなら、それでもいいと思っていたんだ。お前が幸せなら、それでいいと思っていた。でも、今のお前は、あの時のことを引きずって、苦しんでいるように見えたから。」
「クロくん・・・。私っ。ずっとあなたに謝りたくってっ。私っ。私っ。」
黒羽は泣きじゃくる春奈を引き寄せ、強く抱きしめた。
「謝る必要なんでない。お前は何も悪くない。だから、もう自分を責めるな。」
夏の終わり。
うだるように暑かったあの日・・・。
今にも泣き出しそうな空模様の下、私は家へと急いでいた。
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