淫猥病棟#30~後悔~
夏の終わり。
うだるように暑かったあの日。
中学のテニス部で一年生ながらレギュラーになり、秋の地区大会に向けてハードな練習が連日続いていた。
部活が終わり、私は家へと急いでいた。
さっきまで遠くにあった黒い雲が、いつの間にかすぐ近くまで迫っていた。
「お天気、家までもって~。」
そんな願いもむなしく、とうとう雨が降り出した。
雨宿りができるような建物は周りには無く、これはもう駆けて帰るしかない、と、肩にかけていたショルダーバッグを斜めに掛け直し走り出した。
ひどい雨だった。
地面を打ち付ける雨が、霧となってあたりに白くたちこめる。
視界がだんだん悪くなる。
走っている私の横に、派手なアメ車が停まった。
「おじょーちゃん、乗ってく~?」
見るからに頭の悪そうな男が三人、声をかけてくる。
後部座席に座っていた男が車を降り、私の腕をつかんだ。
「そんなぬれちゃって、かわいそーに。おにーさんが温めてあげるよ~」
下品な笑みを浮かべながら、私の腕をひく。
男達の視線は濡れたブラウスがはりつきブラジャーが透けている胸に集まっている。
「やめてくださいっ。大声出しますよっ。」
「この雨だから、誰にも聞こえないよー。ほらほら、乗って。」
強引に手を引き車に乗せようとする。
その時、男の手を違う手が捻った。
「いててててっ」
男は手を背中に捻られ叫んだ。
「いい加減にしておけよ。嫌がってるじゃないか。」
男と私の間に、男性が割り込んだ。
男性は私の方を振り返ると、アゴで早く行け、と合図した。
でも、恐怖で私の足は全く動かなかった。それどころか、ヘナヘナと腰を抜かしてしまった。
「なんだ、おっさん。やるのか?」
「うるさい。お前らの相手をするほど暇じゃないんだよ。」
「なんだと?」
男が男性に殴りかかる。
男性は軽いフットワークで男の拳をよける。
男達の表情に怒りと苛立ちが浮かび上がる。
「おっさん。ナメんなよ?!」
男の一人が指をクルクルっと回すと、バタフライナイフを男性に向けた。
その時、頭上で雷の閃光が走る。
バタフライナイフが殺意を持ってギラッと光る。
私は雷のつんざくような爆音に悲鳴をあげた。
男性が私を振り返る。
スローモーション。
世界からすべての音が途切れ、私の目の前のものはすべてゆっくりと動き出す。
振り返る男性。
男性に迫る男の狂気。
男の手に握られているナイフが男性の脇腹に突き刺さる。
くの字に折れる男性。
車のドアの閉まる音。
タイヤを空転させながらもその場から逃げ去る車。
あ・・・
ああ?!
茫然自失となり腰を抜かしている私の目の前に男性がしゃがむ。
無事かい?良かった。
そう言って力なく微笑んだ後、視界から消えるように崩れ落ちた。
膝の上にある男性の頭を腕で抱え込む。
男性は身動きひとつしない。
だんだんと冷たくなっていく体。
あたりに広がる赤い液体。
だんだんと失われていく命。
たす・・けて。
助けて。
誰かっ。助けてっ。
気がつくと、病院のベッドの上にいた。
ドアの外で母親が誰かと言い争う声がする。
「だから娘さんから詳しい話を伺いたいんですよっ。」
「娘はまだ話せる状態じゃありませんっ。お願いですから、今日は、今日だけはお引き取りくださいっ。」
「そうはいっても奥さん。これは殺人事件の捜査なんですよ?しかも殺されたのは法曹界の超有名人だ。『善意の番人』って聞いたことない?弱者の味方の---」
その後の会話はもう耳に入ってこなかった。
殺された?
あの男性が?
刺されたのは私のせい?
私が雷に驚いて声なんてあげなければ?
私があの日あんなところを歩いていなければ?
私が部活で遅くならなければ?
私がレギュラーなんかに選ばれなければ?
私が、私がっ。
私の口から言葉が失われた。
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