淫猥病棟#32~おまもり~
幸いにも母は命に別状はなく、眠るようにして点滴を受けていた。心労からくる軽い不整脈だった。
しばらくすると、知らせを受けた父親が病院に駆けつけた。
母の傍に座っている私を見て、頭をクシャクシャっと撫でた。
「春奈が電話してくれたんだってな。ありがとう。」
「ううん…。お母さんが倒れたの、多分私のせいだから…。私が心配ばっかりかけるから…。」
父は私がしゃべった事に驚いたのか、びっくりした顔をして私を見ていたが、直ぐに目を細めると、またクシャクシャっと髪を撫でた。
「誰もお前のせいでなんて思っていないよ。それに、子供の心配をするのは親の役目だ。当たり前の事なんだよ。」
「おと・・さ・・・」
私は父に抱きついた。
子供のように泣きじゃくりながら。
「こわかったのっ。また何もできないで、お母さんが死んじゃうのを見るしかできないのかって。こわかったのっ。」
父は私をなだめるように頭をポンポンと叩く。
「じゃあ、春奈は看護師にでもなるか?」
思わぬ父の言葉に、私は顔をあげる。
「何も出来ない自分が嫌だったら、自分を変えればいい。それができるのは春奈以外誰も出来ないんだよ?」
父の言葉は私を貫いた。
出来ないと嘆くよりも、できるように前に進む。
そうか。
そうだったんだ。
助けられないと嘆くのであれば、助けられる自分になればいい。なんでこんな簡単な事に気がつかなかったんだろう。
「お父さん、ありがとう。私、看護師になる。」
それから9年後、無事に看護師の資格を取った私は、助けてくた男性のお墓に報告に来ていた。
雨はいつの間にか上がっていた。
「親父の墓参りに来ている葛西を何度か見かけたよ。でも、声をかけていいのかわからなくって。ありがとな。」
「ううん。クロくん。私、透さんがクロくんですごく嬉しい。ずっと会いたかったの。ずっと謝りたかったし、お礼も言いたかったの。」
そういうと春奈は自分の鞄の中から小さな包みを取り出した。
中身を取り出すと、黒羽の手に持たせる。
黒羽の手にはハンカチが握らされていた。
「?」
「クロくんが私に貸してくれたハンカチ。御守りがわりに持っていたの。いつか返せるかもしれないって思っていたし。」
はにかんだ笑顔を向けられ、黒羽の心臓がドクンと大きく鳴った。
手が春奈の頬に伸びる。
「葛西…。俺、屋上で初めて会った時から、お前のことが・・・」
二人の唇が近づいていく。
互いの息遣いが、感じられる距離になった時、玄関がガラガラっと開き、愛が元気な声でただいまーと言って帰ってきた。
台所で座り込んでいる2人を見て、目を丸くして首を傾げた。
その夜、健太と愛が寝た後、春奈は黒羽の部屋にいた。
いつもは愛が寂しがるからといって3人で居間の横の部屋で寝ていたらしいが、流石にうつるといけないので、自分の部屋に入ってもらった。
「ほんと、熱がすっかり下がりましたね。」
「日頃の鍛え方が違うからな。」
「はいはい。」
その時、春奈の携帯にメールの着信音が鳴った。
---この着信音は…
黒羽から携帯を隠すようにしてメールを確認する。
『会いたい。待ってる。』
春奈はドキッとする。
---祐介先生…。
「祐介か?」
春奈はドキッとして黒羽を振り返る。
「ち、違いますっ。」
黒羽の目が春奈のココロの奥を覗き込むように鋭くなる。まるで病巣でも探すように、少しの違和感をも感じるように。
「葛西、悪いんだけど水持って来てくれないか?」
「はいっ」
携帯を持ってその場を離れようとする春奈に、黒羽は声をかける。
「汗をかいたからシーツとりかえたいんだが、もっていってもらってもいいか?」
そういうと手早くベッドからシーツを剥ぎ取り、春奈に投げた。
春奈は携帯をテーブルの上に置き、それをキャッチする。
「もうっ。いきなり投げないでくださいよっ。ワガママな患者さんですねっ」
そう言って笑いながら部屋を後にした。
その時、携帯が鳴った。
着信表示をみると、祐介からだった。
---やっぱりな。あいつメール送ったあとに電話するのは相変わらずなんだ。
黒羽は躊躇なく電話にでる。
「俺だ。」
一瞬絶句したあと、不機嫌そうに祐介が口を開く。
「・・・黒羽。何で春奈の携帯にお前が出るんだよ。」
---春奈って、呼び捨てかよ。
「うるさい。お前こそ関係ないんじゃなかったのかよ。」
受話器の向こう側で祐介がイラついているのが黒羽にはわかった。
だから追い打ちをかけた。
「お前さ、自分から手を離したくせに、誰かに取られそうになると急に執着するんだよな。昔っからそうだった。好きでもないくせに、葛西をかき回すのはやめろっ。」
「・・・人の携帯で、何をしてるんですか?!」
「か・・・さい・・・」
黒羽は耳に当てた携帯を力なく下ろした。
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