淫猥病棟#44~俺の居場所~
そう思った瞬間、布団越しに尻を蹴られた。
祐介はガバッと起き上がる。
「なにするんだよっ」
黒羽が機嫌が悪そうに祐介を睨みつける。
「こっちのセリフだ。」
祐介の襟元を掴み、顔を近づける。
「お前、何様のつもりだ?よかった?運命だ?幸せにしてやれ?お前に言われなくてもこっちはそのつもりなんだよ。」
黒羽の意図がわからないでいたが、ただ、無性に祐介は腹がたった。
「だから、お前、逃げんなよ。」
「は?」
思いがけない黒羽の言葉に、祐介が怒りも忘れキョトンとする。
「葛西が気になってしょうがないんだろ?カッコつけて俺に譲るとか言うな。俺はお前から葛西を奪い取る。だからお前も同じ土俵に上がって来い。」
「な・・・」
祐介はあいた口がふさがらなかった。
「何いってるんだ?お前、言っている意味わかってんのか?」
黒羽はまっすぐ祐介を見る。
祐介も目を逸らさず、黒羽をまっすぐに見る。
黒羽はたたみかける。
「俺は葛西を心から愛している。何よりも大切に思っている。」
「・・・そういうのは本人に言えよ。」
---言ったよ。そしてお前に負けたんだよ。悔しいから言わないけどな。
「だが、俺は、お前のことも、大切な友人だと思っている。」
「な・・・」
「親父がなくなって、お前が俺のために心を砕いてくれたのを俺は知っている。心から感謝している。俺は、お前のことも失いたく無いんだ。」
祐介の顔がみるみるうちに赤くなる。
「お前、こういうの言われ慣れてないだろ。昔から誰に対しても一線引いていたもんな。信じられないんだろう?他人も、愛されている自分も。」
祐介はなにも言えず、ただ黒羽を見つめる。
「祐介。お前の事を親友だと思ってる。だから正々堂々と葛西を奪いたい。譲る譲らないと、俺たちが決める事じゃない。葛西が俺たちを選ぶんだ。」
「クロ・・・ちゃん」
「ちゃんをつけるなっ。」
黒羽が笑いながら抗議する。
しかし、驚いた後微笑む。
「黒・・・ちゃ・・・」
祐介は顔をくしゃくしゃにして泣き出した。
そんな祐介のクビに腕を回し抱え込むと、もう片方の手で、髪をくしゃくしゃっとする。
「お前はみんなから愛されてんだよ。ちゃんと周りを見てみろよ。」
「っっ。」
祐介は涙で声が出なかった。
---俺、愛されてんのかな?俺の居場所、ここにはあるのかな?周りの大人は涼介しか見ていなかった。こんな俺を愛してくれる奴なんているのかな?
「祐介。自信を持て。お前は愛されてる。少なくとも、俺と葛西はお前の事が好きだ。」
---俺は。俺はっ。
「わかったよ…。わかった。」
祐介は黒羽のヘッドロックをはずす。
「シャワー、借りていいか?」
「いいが、大丈夫か?貧血舐めんなよ。」
はは、と笑って祐介が部屋を出て行った。
祐介を見送ると、黒羽は春奈の布団に目をやる。春奈はすっぽり布団をかぶっている。
「俺の恥ずかしい告白、聞いてただろ。葛西。」
春奈の布団がビクッと揺れる。
「ほらよ。」
春奈の布団の中にティッシュBOXを入れる。
小さく鼻をかんだ音がした後、目と鼻の頭を真っ赤に腫らした春奈が顔を見せる。
「透さん、ちょっとかっこよかったです。」
「ちょっとかよ」
そう言って2人は笑った。
「祐介んちはさ、ちょっと特殊な家でさ。多分居場所がなかったと思い込んでいたんだよ、あいつ。小さい頃から跡継ぎにと望まれていたのは弟の涼介だったし。」
「なんでですか?」
「さあ?そこまでは。血の濃さとかわけわかんねえこと言っていた時もあったけど…」
黒羽は話を続ける。
「あいつは、『人はみんな涼介に集まる』と言っていた事があったんだが、そんな事ないのにな。あいつの周りにだって、ちゃんと人が集まっている。後はあいつが心を開くか開かないか、それだけの問題なんだ。」
春奈は目を細めて黒羽の顔を見る。
「透さんは、本当にお兄ちゃんですね。」
「あんなデカイ弟はいらないよっ」
「あははは。」
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