淫猥病棟#45~決心~
シャー
祐介はシャワーを浴びていた。
シャワーのお湯を頭から浴び、うなだれるように下を向く。
頬を伝う水はシャワーのお湯か、それとも別の液体なのか、祐介にもわからなかった。
ただ、自分のその感情を持て余していた。
幼い頃から誰にも相手にされていないと思い込んでいた祐介を、黒羽はあっさりと否定した。それどころか親友だと、自分を失いたくないとまで言ってくれた。
ーーーじいちゃんのこと。親父のこと。涼介のこと。弥生ちゃんのこと。それから、黒羽のこと。俺は何ひとつ見えちゃいなかったんだ。
祐介は上を向いた。
シャワーのお湯が直接顔にあたる。
目をとじたままシャワーに打たれ続ける。
ーーー当面の問題は、春奈と涼介の安全の確保。涼介は今はそれなりに立場のある状態だから、表立って手荒な事はせず、今回のように裏から手を回すだろう。ということは春奈か。
祐介はふう、と息をつく。
額にある髪の毛を両手で後ろへ流す。
そしてゆっくりとまぶたを開く。
その開いた瞳は強い意思を持っていた。
シャワーから出ると、テーブルの上に所狭しと皿が並んでいた。
「すげえな…」
祐介は感嘆の声を漏らした。
「貧血にいい食べ物ばかり作ったぞ。全部食え。」
そこには鉄分が豊富な食材を使った料理が並んでいた。しかもちゃんと吸収されやすいように食材の組み合わせが考えられている。
「これ、全部お前が?」
祐介は料理を指差し、黒羽に向かって聞いた。
「ああ。」
「すげぇな。昔お前んち来たらカップラーメンしか出なかったのに。お前、いい嫁さんになるぞ。」
「馬鹿野郎。ほら、温かいうちに食えよ。」
祐介はおとなしく座り、箸をとった。
いただきますというと、まずシジミの味噌汁に手をつける。
「うま・・・」
おとなしく食事をしている祐介を見て、黒羽がやさしく微笑む。
黒羽が祐介の向かい側に座ると、祐介はご飯を食べながら黒羽に聞いた。
「春奈は?」
「今は眠っているみたいなんで、無理に起こさなかった。葛西抜きで今回の件の話を聞きたいしな。」
ーーーきた。
祐介は心の中では身構えたが、表面は冷静を装って返事をする。
本心を隠して生きてきたのがこんなところで役に立つなんて、と、心の中で自嘲ぎみに笑った。
「今は食事中だぞ。」
「あぁ、すまん。気が急いた」
祐介が食べ終わりそうなのを見計らい、黒羽がお茶を入れ直しに台所に立つ。
祐介は覚悟を決めた。
お茶を祐介に渡した黒羽が、口火を切る。
「祐介。全部話せ。なんで葛西はさらわれたんだ?」
テーブルの下、黒羽の見えないところで祐介はコブシをギュッと握る。
「色ボケのおっさんがいて、病院で見かけた春奈を気に入っちゃったみたいなんだ。」
黒羽が一瞬あっけに取られる。しかしすぐに鋭い目に戻る。祐介の表情の動きを少しも漏らさず見るように、病巣を探す医師の目と同じになる。
「そんなウソが通用すると思ってるのか?だいたいお前がふざけるときは、ウソをつくときなんだ。自覚ないのか?」
今度は祐介があっけに取られる。
ーーーそうなんだ。俺って・・・。うわ。ちょっと恥ずかしいぞ。しかし今回は大筋ではウソじゃない。
「ウソじゃねえょ。」
「大筋はウソじゃねぇって顔してるな。」
祐介はボッと顔があかくなった。
ーーーなんだ?なんなんだ?!
「お前の考えている事なんて、すべてお見通しなんだ。何年一緒にいると思ってるんだ?」
祐介はうろたえていた。
「お前、自分が思っているよりわかりやすい人間だぞ?」
祐介は思わず口を手で覆った。
ーーーなんなんだっ。この感情はっ。嬉しいような、気恥ずかしいようなっ。口がっ。口が勝手に笑い出すっっ。
祐介の顔はそれとわかるほど、真っ赤になっていた。よくみると湯気さえも出ているのではないかと思うほどに。
そんな祐介を見て、黒羽はニヤっと笑う。
「お前さ、もう俺の前じゃ、嘘をつけないんだよ。お前が引いていた線はさっき消しちまったしな。ほら、全部吐いちまえよ。」
信じられないといった目で黒羽を見た後、気を取り直すように深呼吸をする。
そして、ゆっくりと黒羽に向き直った。
「わかった。お前には全部話す。ただし今じゃない。どうしても確かめたい事があるんだ。それが済んだら、お前には全部話す。」
祐介の真剣な表情に、黒羽も真剣な表情になる。
「それはどうしても必要なのか?」
祐介は頷きながら答える。
「ああ。だから春奈を守って待っていてくれ。」
2人の間に沈黙が流れる。
時間にしてわずか数秒の事だったが、祐介には長く、そして重く感じられた。
「わかった。祐介。お前を信じて待っている。」
祐介はホッとした。
祐介の確かめたい事。それは結果によっては黒羽をひどく傷つけるかもしれないことだったからだ。
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祐介はシャワーを浴びていた。
シャワーのお湯を頭から浴び、うなだれるように下を向く。
頬を伝う水はシャワーのお湯か、それとも別の液体なのか、祐介にもわからなかった。
ただ、自分のその感情を持て余していた。
幼い頃から誰にも相手にされていないと思い込んでいた祐介を、黒羽はあっさりと否定した。それどころか親友だと、自分を失いたくないとまで言ってくれた。
ーーーじいちゃんのこと。親父のこと。涼介のこと。弥生ちゃんのこと。それから、黒羽のこと。俺は何ひとつ見えちゃいなかったんだ。
祐介は上を向いた。
シャワーのお湯が直接顔にあたる。
目をとじたままシャワーに打たれ続ける。
ーーー当面の問題は、春奈と涼介の安全の確保。涼介は今はそれなりに立場のある状態だから、表立って手荒な事はせず、今回のように裏から手を回すだろう。ということは春奈か。
祐介はふう、と息をつく。
額にある髪の毛を両手で後ろへ流す。
そしてゆっくりとまぶたを開く。
その開いた瞳は強い意思を持っていた。
シャワーから出ると、テーブルの上に所狭しと皿が並んでいた。
「すげえな…」
祐介は感嘆の声を漏らした。
「貧血にいい食べ物ばかり作ったぞ。全部食え。」
そこには鉄分が豊富な食材を使った料理が並んでいた。しかもちゃんと吸収されやすいように食材の組み合わせが考えられている。
「これ、全部お前が?」
祐介は料理を指差し、黒羽に向かって聞いた。
「ああ。」
「すげぇな。昔お前んち来たらカップラーメンしか出なかったのに。お前、いい嫁さんになるぞ。」
「馬鹿野郎。ほら、温かいうちに食えよ。」
祐介はおとなしく座り、箸をとった。
いただきますというと、まずシジミの味噌汁に手をつける。
「うま・・・」
おとなしく食事をしている祐介を見て、黒羽がやさしく微笑む。
黒羽が祐介の向かい側に座ると、祐介はご飯を食べながら黒羽に聞いた。
「春奈は?」
「今は眠っているみたいなんで、無理に起こさなかった。葛西抜きで今回の件の話を聞きたいしな。」
ーーーきた。
祐介は心の中では身構えたが、表面は冷静を装って返事をする。
本心を隠して生きてきたのがこんなところで役に立つなんて、と、心の中で自嘲ぎみに笑った。
「今は食事中だぞ。」
「あぁ、すまん。気が急いた」
祐介が食べ終わりそうなのを見計らい、黒羽がお茶を入れ直しに台所に立つ。
祐介は覚悟を決めた。
お茶を祐介に渡した黒羽が、口火を切る。
「祐介。全部話せ。なんで葛西はさらわれたんだ?」
テーブルの下、黒羽の見えないところで祐介はコブシをギュッと握る。
「色ボケのおっさんがいて、病院で見かけた春奈を気に入っちゃったみたいなんだ。」
黒羽が一瞬あっけに取られる。しかしすぐに鋭い目に戻る。祐介の表情の動きを少しも漏らさず見るように、病巣を探す医師の目と同じになる。
「そんなウソが通用すると思ってるのか?だいたいお前がふざけるときは、ウソをつくときなんだ。自覚ないのか?」
今度は祐介があっけに取られる。
ーーーそうなんだ。俺って・・・。うわ。ちょっと恥ずかしいぞ。しかし今回は大筋ではウソじゃない。
「ウソじゃねえょ。」
「大筋はウソじゃねぇって顔してるな。」
祐介はボッと顔があかくなった。
ーーーなんだ?なんなんだ?!
「お前の考えている事なんて、すべてお見通しなんだ。何年一緒にいると思ってるんだ?」
祐介はうろたえていた。
「お前、自分が思っているよりわかりやすい人間だぞ?」
祐介は思わず口を手で覆った。
ーーーなんなんだっ。この感情はっ。嬉しいような、気恥ずかしいようなっ。口がっ。口が勝手に笑い出すっっ。
祐介の顔はそれとわかるほど、真っ赤になっていた。よくみると湯気さえも出ているのではないかと思うほどに。
そんな祐介を見て、黒羽はニヤっと笑う。
「お前さ、もう俺の前じゃ、嘘をつけないんだよ。お前が引いていた線はさっき消しちまったしな。ほら、全部吐いちまえよ。」
信じられないといった目で黒羽を見た後、気を取り直すように深呼吸をする。
そして、ゆっくりと黒羽に向き直った。
「わかった。お前には全部話す。ただし今じゃない。どうしても確かめたい事があるんだ。それが済んだら、お前には全部話す。」
祐介の真剣な表情に、黒羽も真剣な表情になる。
「それはどうしても必要なのか?」
祐介は頷きながら答える。
「ああ。だから春奈を守って待っていてくれ。」
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