淫猥病棟#81～もうちょっとだけ～

　
　
メンタルケアの本を本棚に戻し、ベッドに寄りかかりながらラグの上に座る。

－－－透さん。クロくん。あの人の息子。

春奈は膝を抱えながら考え込む。

－－－透さん、祐介先生。私は、いったいどちらが好きなんだろう・・・・・。このままじゃ二人とも傷つけちゃう・・・・。

膝に顔を埋め、自己嫌悪に陥っていると、ドアが開き黒羽が部屋に入ってきた。

「寝てるのか？」

春奈は完全に顔を上げるタイミングを失っていた。

「・・・。」

黒羽は黙って春奈の横に腰をおとした。

肩をわざとつけながら、缶ビールのタブを開ける。

「そのままでいいから聞いてくれ。」

－－－寝ていないのがばれてる？

「旅行明けの出勤初日で疲れているのに悪かったな。そのつもりで来いなんて言って、悪かったと思ってる。その・・・つい・・・・・うれしくてな・・・。」

黒羽の声はだんだん小さくなり、最後はかすれていた。恥ずかしいらしく顔が赤くなっている。

「それと今日夕方から緊急オペが入って、連絡もできずにすまん。じゃぁ、俺は居間で寝るから、おまえはこのまま後ろのベッドで寝ろよ。おやすみ。」

そういって黒羽は立ち上がる。

しかしＴシャツがくいっと引き寄せられ、立ち去ろうと足を動かそうとした状態でそのまま止まる。

Ｔシャツの端を春奈が掴んでいた。

「・・・葛・・西？」

「もうちょっとだけ。・・・・一緒にいたいです．．．．」

黒羽は少しうれしそうに微笑んだ。

－－－そんなうれしそうな顔をされちゃうと、また心臓がドキドキいっちゃいますってば。

「テレビでもつけるか？」

そういって黒羽はリモコンを手に取るが、春奈は首を横に振る。

「透さんの１３年間がわかるものが見たいです。・・・卒業アルバムとか？」

黒羽はリモコンをそのまま元の場所へおき、本棚の一番下にあった卒業アルバムを手に取り、春奈の目の間のテーブルに置いた。

「葛西、もうちょっと前に座れよ。」

「？。はい。」

春奈が前にずれると、春奈とベッドの間に黒羽が入った。

－－－えっ？。

黒羽は春奈を両足で挟み込むようにして座ると、春奈をぐいっと引き寄せた。

－－－ええええええええええっっっ

「よりかかっていいぞ。」

黒羽にすっぽり抱えられた格好の春奈は、そのままの状態で固まっている。

黒羽は手を伸ばして、テーブルの上にあるアルバムを手に取ると、カバーから出して自分がいたクラスのページを開き、再びテーブルに置いた。

黒羽がアルバムをなにかするたび前かがみになり、その都度春奈を抱え込むように躯を押し付ける。

「葛西？見ないのか？」

前かがみの体勢になっているため、ちょうど耳元で囁いている形になる。

－－－この体勢は危険すぎますってばっっ

「葛西？もしかして、俺のこと、意識してる？」

黒羽がくすっと笑う。

「こ、、、この体勢で、意識しないわけないじゃないですかっ。」

そういって春奈は黒羽に向かって振り返る。

すぐ目の前に黒羽の甘い顔があった。

「あ・・・。」

「葛西・・・。」

黒羽が目を閉じ、春奈に唇を重ねた。

春奈も、そっと目を閉じた。

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