妄想彼氏#39~そこにある奇跡~
しかし、時間が経つに連れ、だんだんと祐介の手の動きが鈍ってきた。
「術野、しっかり保てっ。」
黒羽の声が響く。
———くそっ。
黒羽の叱責に、祐介は歯を食いしばる。
震える左腕は気合だけでは止まらず、脇にギュッと押し付けるように力を入れる。
———くそっ。くそっ。助けられる命がそこにあるのにっ。動けっ。俺の腕っっ。
「ペアンッ!」
器械出しの看護師から鉗子を渡される。位置的にそれを左手で受け取らねばならず、手のひらに出された器具を握れず落としてしまった。
「悪い!ペアンを指に通してくれないか?」
「はっはいっ」
看護師が慌てて祐介の指に器具をかける。
そこで初めて黒羽が顔を上げた。
「祐・・・介・・・?!」
「よぉ、クロ。久しぶり。悪いな、こんな腕の錆び付いた人間が前立ちで。」
「いや・・・。」
「代わりの人間が来るまでだから。ほら、クロっ。手を動かせよ。集中しろよっ。」
いわれなくてもわかっている。そんな顔をして黒羽は術野を注視する。
しかし、そのマスクで隠された口の端は上がっていた。
———祐介が、戻ってきた。この場所に、戻ってきた。
黒羽のスピードが上がる。
祐介に引っ張られ、どんどん高みに登っていく。
「おまたせしま・・・。」
手術室に入ってきた代わりの医師が息を飲む。
そこには自分ごときが立ち入ってはならない領域があった。
「神だ。神の領域だ・・・。」
まばゆいひかりのもと、繰り広げられる手技に、医に携わる者全員が息をのむ。
呼吸音さえもさせてはいけないのではないかと思う程、研ぎ澄まされた冷涼な空気と、患者をとりまく柔らかな光が一体となり昇華する。
その場にいた人間が、後に『奇跡を見た』と語るのも無理がないことだった。
カタンと器具がトレイに置かれる。
その音が手術が終わったことを告げる。
黒羽はふぅっと息を吐き、目の前にいる祐介に笑みを見せる。
そして右腕をあげかけ、一瞬ためらった後、左手を差し出す。
祐介も黒羽に笑顔を見せ、左手をあげその手を握った。
そしてチカラを込める。
その握力は成人のそれに比べ弱々しいものだったが、その握るチカラに黒羽は満足げに手を見た後、祐介に声をかける。
「おかえり。祐介。」
祐介は照れ臭そうに笑うと、繋がれた手の上に右手を重ねた。
その上に黒羽も手を乗せる。
手術室の片隅から自然発生的に拍手が起き、やがて伝播し部屋の中に溢れた。
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