年下彼氏#06(完)
時間が来て、私達はホテルをあとにする。
手を繋ぎ、無言で裏通りを歩いている。
その角を曲がれば大通り、というところで、直樹が足を止める。
そして無言で私に向き合った。
「千賀子・・・・。」
私の手を掴んでいる指の先にチカラが入る。
その指から離したくない、離れたくないという気持ちが伝わってきて、私の胸を締め付ける。
でもね。だめなの。全てを投げ出してあなたを選ぶような私は、たぶん私じゃない。
「私には・・・・。愛する夫がいて。かわいい子供もいて。」
「うん。」
私たちは目を逸らさず、会話する。口と耳だではなく、五感のすべてを使って気持ちを伝えあう。
「私の帰るべき場所は、あなたの腕の中じゃない。」
「うん。」
直樹は口を真一文字に結びながら、でも、微笑んでいる。
「楽しかった。短い、ほんと短い間だったけど、直樹といて、とっても楽しかった。この気持ちを、一生大事にする。」
「うん。」
私も直樹を見て微笑む。すると直樹が口を開いた。
「俺、あんたのことが大好きだった。本気で惚れてた。千賀子は気づいていなかったかもしれないけど、俺、千賀子があの店に来た時はいつも千賀子のこと見てた。」
知らなかった。彼があの店にいつもいるだなんて。そして私のことを見てくれていたなんて。
「美味しそうに、幸せそうに料理を食べてるあんたと話してみたくって。」
「うん。」
「話せたら、触れてみたくって。」
「うん。」
「触れたら・・・・俺のものにしたくって。」
「うん。」
私の頬に直樹の指が触れる。
あの、私の好きな指が、触れる。
「最後に、キスしても、いい?」
「うん・・・・。」
直樹はゆっくりと身体を傾け、私はゆっくりと上を向く。
大通りにつながる路地裏で、一つになったシルエットから伸びる影が闇に溶けていった。
それから数日後。
会社の同僚に誘われ、久々あの店を訪れた。
いるわけないのに。いたらいたで困るのに。
そんな複雑な思いで店内に足を踏み入れ、あたりを見回す。
そう広くない店内を何度見回しても、直樹の姿はなかった。
ほっとするような、でも、ちょっとさびしいような、何とも言えない気持ちになる。
同僚4人と話をしているうちに料理が出来上がり、次々と各々の前に皿が運ばれてきた。
私のところにも、今日のおすすめ「海老とアスパラのクリームパスタ」が置かれる。
その皿を見て、私は驚いた。
同僚も、私の前に置かれた皿を見て声をあげる。
「かわいいっ。千賀子さんのパスタに乗ってる海老が、ハートを描いてるみたいっ。」
私は驚いて同僚の皿と見比べる。
同じものを頼んだ同僚のパスタに乗っている海老は、特に形を作るわけでもなく、普通に乗っている。
「いいなー。偶然にしてはすごく綺麗にハートですねぇ♪」
きゃっきゃ騒いでいる同僚の声も耳に入らず、私は厨房につながるドアを見つめる。
ドアには丸いガラスがはめ込まれているが、鏡のようになっており、こちらからは厨房は見えない。
直樹?
直樹なの?
単なる偶然かもしれない。
でも、私はドアの向こうに、直樹の気配を感じた。
私はドアに向かってにっこりと微笑むと、パスタをくるくるっと巻き、口に頬張った。
ちょうどよい塩梅のやさしい味のパスタに、幸せを噛み締めた。
年下彼氏 完
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