淫猥病棟#53~つきつけられる事実~
「去年あたりから、親父が内偵チームを作って調べさせていたんだ。特別病棟に不穏な金の動きがあるってな。」
黒羽の家の居間で、祐介が話しはじめた。
祐介の話を黒羽、涼介、春奈が聞く。
ゆう子は仕事の為すでにいなかった。真中もそれに同行した。高瀬はいつの間にか姿を消していた。
「特別病棟はもともとVIPの為の施設で、許可を得た一部の医師だけがあそこに出入りできるんだ。カルテは別管理。経理も別管理。そんな経営上の隙間をぬって、いつの間にかある組織が暗躍していた。」
祐介は呼吸を整える。
「特別病棟には政治家や暴力団などの入院を公にできない人種ばかり集め、規定以上の金を巻き上げていたようだ。その金を搾取していたのが、その組織というわけだ。」
再び呼吸を整える。祐介は呼吸を整えながら、己の心も整える。
「そして、医療機器メーカーとも癒着している噂もある。特別病棟から搾取された金、医療機器メーカーから渡された賄賂。それらは・・・」
祐介は黒羽の目をまっすぐに見て話す。
「すべて、救命救急に注ぎ込まれているらしい。」
「え・・・?」
黒羽が驚いた顔をしたまま凍りつく。
「先日の首都高での玉突き事故。あの時ホールが臨時の外来になるぐらい患者が溢れたよな?消耗品は診療費にすべてはつけられない。基本的に持ち出しだ。その時に使われた医薬品の在庫量が救命で抱えられる在庫の予算を遥かに上回っていた。今の事務局長とだいぶ揉めたらしいが、薬品庫からの補充はなかったはずだ。すべて救命の在庫と予算から捻出されていると考えて間違いないだろう。」
祐介は黒羽から目を逸らさない。
「しかし救命の消耗品は潤沢だ。予算が底をついているなんて、微塵も感じさせない。しかし予算が無い以上、それを診療報酬等にうまく上乗せして請求する必要が出てくるはずだ。が、そんなことは一切していない。それどころか、診療報酬点数は患者の経済状況によっては通常よりも低い点数をつけている。なのに診療報酬内で決められた事以上の検査を実施している。これはすべて病院側の負担になる。でも救命はまわってる。他の病院よりも高い救命率と低い点数で。これはどういう事だ?」
「シ、シロチョーはっ。シロチョーは知っているのかっ?!」
黒羽が声を絞り出す。
「わからない。ただ、」
「ただ?」
黒羽が不安気に祐介を見る。
「春奈の件、済まなかったと、もう手は出させない、と、言われた。」
「う・・・嘘だ。シロチョーが、そんなっ。」
黒羽が動揺する。
「シロチョーの真意はわからない。だが、なんらかの形で関わっている事にはかわりがない。」
「うそ・・・だっ。祐介っ。お前また嘘をつこうとしてるのかっ。俺にはお前の嘘なんてすぐ・・・」
黒羽が祐介の胸ぐらをつかみ上げる。
祐介はまっすぐに黒羽を見る。
「あ・・・」
黒羽は祐介から手を離す。
「本当・・・なんだな?」
「・・・ああ。」
「・・・」
黒羽は力なく座り込む。
「俺は、シロチョーには何か理由があると思ってる。いや、思いたい。信じたいんだ。」
祐介は黒羽の頭をポンポンと叩くと、涼介に出ようと声をかける。
「春奈、黒羽のそばについてやってくれるか?」
「はい。もちろんです。」
祐介はニコッと笑って涼介と共に家を出た。
黒羽は口を開かず、座り込んだまま焦点の合わない目で床を見つめている。
春奈は黒羽の後ろにまわり、そっと黒羽を抱きしめる。
「シロチョーは、俺が小学生だった頃から、面倒を見てくれていたんだ。」
黒羽が小さい声で話し始める。春奈に説明するというよりかは、独り言の延長のように聞こえる。だから春奈は相づちもせず、ただ、黒羽を抱きしめ続ける。
「親父が弁護活動で地方を飛び回っていた時も、俺を家に呼んでくれたりとかして、俺は親父よりもシロチョーと過ごす時間の方が長かったぐらいだった…。」
「俺が大学を卒業する頃、シロチョーの奥さんが亡くなって、その頃かな・・・。シロチョーが救命に力を入れる、いや、とりつかれたようになったのは。」
「シロチョーが隣の家から病院のそばのアパートに引っ越してね。ちょっと疎遠になったんだ。」
「祐介の話が本当なら…。近くにいて、もっと気を配っていればよかった…。」
黒羽の声がつまる。
春奈は抱きしめる腕にギュッとチカラをこめる。
「透さん…」
「俺はシロチョーに何も返せていない…。」
黒羽は額に手をあてうつむき涙を流した。
春奈は黒羽の正面に座り、頬に両手を添えると、優しくキスをした。
「泣かないで…。クロくん…」
春奈は再び黒羽にキスをする。
「まだ、わかりませんよ。」
黒羽が春奈をみつめる。
「シロチョーの真意がどこにあるのか、それを確認してからでいいのでは?まだ返せるチャンスはいくらでもありますよ。」
春奈は優しく笑い、黒羽の髪を撫でる。
「葛西…」
黒羽は春奈の唇に自分の唇を押し付けた。
「葛西…。葛西っ」
春奈はゆっくりと目を閉じた。
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