淫猥病棟#117~サヨナラ~
廊下で春奈はボロボロと涙を流してうずくまっていた。
気がつくと、横に病室に向かって立ち止まっている足元が見えた。
見上げると黒羽が病室に向かって立っていた。
春奈が自分を見上げていることに気がつくと、フッと笑みを浮かべた。
「透さ・・・」
黒羽はしっと指を唇に当てて、上へ、屋上へ行こうとジェスチャーした。
外はすっかり秋の空で、抜けるように高い、真っ青な空が広がっていた。
「シロチョーがさ、転院するって言い出した。シロチョーの故郷の小さな病院だ。」
春奈は黙って話を聞いている。
「そこの病院にはペインクリニックで一目置かれている医師がいてさ。俺は、アメリカには行かず、そこでその医師とシロチョーの病気の治療と研究をしようと思う。」
黒羽が春奈の方に振り返る。
「俺は、シロチョーについて行く。」
風が、黒羽の長い前髪を揺らす。
黒羽が悲しそうに目を細め、しかし口の端に少しばかりの笑みを浮かべ話し続ける。
「サヨナラだ、葛西。・・・君のことが好きだった。」
そう言って抱きしめようとしてあげた手を戻し、拳をぎゅっと握ってその場を去って行った。
春奈は両腕を抱きかかえるようにして、その場にうずくまる。
半身を切り取られたような喪失感に襲われながら、それでも嗚咽を漏らすまいと、必死で息をつめる。
--- | 透さんっ。私も、私もあなたのことが好きでしたっ。 私がこうやって生きているのは、あの日屋上であなたが泣くなと言ってくれたから。 私がこうやって今幸せでいるのは、あなたが大きな愛で私を支えてくれたから。 私が辛い時、気づけばいつもあなたがそばにいてくれた。 私はそんな大切なことにもきがつかないで・・・・・・・ |
春奈は自分を抱く腕に力を込める。春奈の脳裏に、黒羽の姿が浮かんでは消える。
『いやだ。離したくない。』
『お前のことを、13年前から愛してる。』
『葛西、俺のこと好きになれよ。』
『泣くなら俺の腕の中で泣け。』
『葛西、俺はなりふり構わず、お前のことを奪いに行く。』
『俺だけを見ていればいい。』
『葛西春奈さん。俺と結婚してください。』
『サヨナラだ、葛西。・・・君のことが好きだった。』
春奈はキュッと目をつぶる。
--- | 透さん。 あなたの愛につつまれて、私は幸せでした。 きっとあなたと一緒になれば、私は一生幸せに暮らせるんだと思います。 ・・・でも私は祐介先生のそばにいます。 私をまもるために大切な腕を傷つけた祐介先生のそばにいます。 あなたもきっとそれを望んでいると思うから。 あなたからもらったたくさんの愛を、祐介先生に捧げます。 私たちは離れていても、空はひとつにつながってる。 あの日怖いぐらいに真っ青な空を2人で見上げたように、離れていても、見ている空は同じだから。 ありがとう。 そして・・・・・ ・・・・・・・・・サヨウナラ |
黒羽が病院を去って、数十日がたった。
祐介の腕も、リバビリの効果で順調に回復していた。
「春奈のおかげで、だいぶ動くようになったよ、ほらっ。」
祐介がゆっくりではあるが、手を開いたり握ったりしている。
その横で、春奈は心ここに在らずと言った表情で、ぼうっとしていた。
「・・・奈、春奈っ。」
「え?あ?はいっ。なんでしたっけ?」
春奈が慌てたように笑顔を作る。
祐介はため息交じりに春奈を見た。
「今日もリハビリにつきあってくれてありがとう。もう戻ってもらっていいよ。」
そう言って春奈を病院長室から送り出した後、祐介は高瀬に電話を入れた。
「高瀬。至急用意して欲しいものがある。」
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